
次郎冠者
さてもさても、甘き匂ひにてあらむ。
太郎冠者
いな、これは超古霊糖なるブスより作られしものにて、僧房に出るネズミよけにてさぶらふ。
次郎冠者
はて。ブスとは、かのトリカブトより取りいだしたる毒にやあらむ。
太郎冠者
さやう。本邦ならず唐天竺にも聞こえし猛毒なれば、ゆめゆめ食ひたまふことなかれ。
次郎冠者
して、ネズミの食らはば、いかがなるや。
太郎冠者
もんどりうちてとく死ぬるよし。
(中略)
次郎冠者
太郎冠者、それがしの口に入れしは、超古霊糖なる毒にやあらむ。
太郎冠者
われらは殺生を禁じられし身なれば、ネズミとて生あるものにて、あまた心苦し。
さすれば、拙僧自らそれを食し、ネズミをば助けむとこそ思はめ。
次郎冠者
いさ。あっぱれなり。
さすれば、拙僧もかくありなむ。
太郎冠者
いな。おん身の如く若きは、命こそ思はめ。
かかる修行は、老ひたるぞよき。
となむ言ひて、太郎冠者の超古霊糖をすべて口にばいれたり。
次郎冠者
太郎冠者。具合やいかに。
太郎冠者
極めて悪ろし。次郎冠者、とく苦き茶の持て来てむ。
超古霊糖のブスの毒消しには、濃き茶こそあらまほしけれ。