
★某喫茶店みたいところにて。
すぐ隣で、30代の男同士が向き合っていた。
1人は、この暑いさなか黒いスーツ姿。
もう1人は、Tシャツにジーパンというラフなスタイル。
座り方と背筋の曲がり具合から、スーツが先輩、Tシャツが後輩のようだ。
私が席につくのを待っていたかのように、2人の会話が本題に入ったようだ。
で、俺の話というのはな。 新しく家を建てたお前のことを考えて、いい話を持ってきたわけだよ。
(あちゃあ。あやしいことこの上ない。ビジネスなら、“お前のため”と言った時点で、私ならごめんなさい)
わかんねえようだから、電話の話を詳しく説明するぞ。
(待ってました!何か知らないが面白そう。すぐ隣にいる私も拝聴させていただきます)
お前んとこだと、月どのくらいだ?
1万4~5000円くらいです。
そうか、ざっとみて2万。年30万だな。
(確かに、ざっとですなあ)
でな、これは本当は500万だけど、今なら補助金が出て、だいたい300万。
つまりな、10年分なわけよ。
(ほーっ。アレの話だな。これはしっかり聴かなくては。しかし、使用料金と購入費を比較するっていうのはなんか変だぞ)
安いだろう。
たった300万だぜ。
300万ですか?いやあ、……。
何を言ってる。
お前は家を現金で払ったのか?
いや、ローンです。
だろ。その額に比べたらたいしたことないだろよ。家のローンは当たり前。
それに、ちょこっと払いん増やすだけでいい。
しかし……。
いいか、10年でもとが取れて、そのあとは売れるんだよ。
(??10年後に売ることができるなら、最初からなぜ売らないのかな?)
お前、疑ってないか。
……。
俺は騙してるわけじゃないよ。お前を騙してもなんにも得にならないし。
(そうか。慈善事業なわけか。それにしちゃ、ずいぶん勧め方が強引ですな。だいたい騙すつもりはないなんて自分から言うあたりが滅法あやしい)
しかもこれ、10年保障だ。
(待て待て。10年保障って何だ?300万なら、現在のままでいても、彼の計算でさえ10年分。私の計算では15年分の支出。ところが、スーツが買えと言ってるやつは10年保障。つまりそれ以降は壊れても、自腹となる。さっきは10年以降に売れる=儲けになるとな話だったが、これじゃあ、また赤字になるんじゃないの?)
さらにな、お前んとこは屋根が広いよな。
だから、最初は少し高めになるけど、あとはより儲けるわけよ。
(だから、だったらなぜ初年度から売らないのさ。初年度に売れる電力が作れなかったら、老朽化した10年後に売れる電力を作れるわけないでしょうって)
※
いいですか。
1万歩譲って、スーツさんの話がすべて正しいとしますよ。
で、簡単な計算をしてみましょう。
おすすめのやつを買わなかった場合。
電気料金値上げはあるでしょうが、面倒なので10年間同じとします。
Tシャツさんの月の支払いは15000円。
12ヶ月、つまり1年で18万円。
10年で180万円。
それ以外の支出はなし。
一方、おすすめ品を購入した場合は、どこから出るのか知らないが補助金を差し引いて、300万円。
ここですでに120万円のマイナス。
さらに、11年後からはメンテナンス代がかかる。
場合によっては、メンテナンスどころか廃棄が必要になる。
この廃棄は産業廃棄物として、かなりの別途経費が必要だ。
だいたい、日本の気候を考えば、屋根だけのパネルで一家の生活を賄える電力が得られるのかどうかは、ソーラーカーを見れば判る。
ソーラーカーはほぼ全面太陽光電気変換パネルを使っている。が、オーストラリアの砂漠の下でさえ車のモーターを回すのがやっとなのだ。
モーターは、電力をあまり使わない機械のひとつと言ってよい。
ヒーターだのクーラーだのの消費する電力とは桁違いだ。
だいたい、ソーラーハウスに電線が引いていない家を見たことないですよ。
いや、あの電線は他から電気を買うのではなく、自分ちで作り過ぎた電気をどっかに売ってるからでしょうかねえ。
そうだ。そうに違いない!
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