
私は平気派
昼過ぎにちょこっと出て夕方にはお帰りのはずが、泥沼に足を取られてこんな時刻である。
目が悪くなったなあ、と改めて思う。
昔なら事前に落とし穴を予知し、前もって心構えもしていたはずだ。
が、今は足元にあっても気付かない。それどころか、落ちてしばらくしてから、自分の所在が分かる始末。最近よく言われるが、使えない男になったものだ。
帰り道には、浴衣姿の男女が溢れていた。
今日は新盆でも旧盆でもないはずだが、……。
泥沼に落ちた疲れを癒すべく、喫茶店で涼んでいくことにする。
ここにも、浴衣姿がある。
男のベルトを掴み、少ししなだれかけた二十歳くらいの浴衣姿の女性が、何を頼むか迷っている。
ずいぶんと時間がかかる。
時々、男のベルトを引っ張りながら、まだメニューとにらめっこだ。
同い年くらいのユニフォーム姿の店員が、その浴衣にチラリ目をやる。
それは涼しげでもあり、また少し曇っても見えた。
私は彼女と、汽車から蜜柑を投げる少女とを重ねている自分に気づいた。
なんら共通点がないようにも思えるのに、それを眺めている、あの男の気分になっていた。