久しぶりに石川町の駅に降り立った。
気のせいか、この前来たときより人がまばらに思えた。
陳は太めの身体全身に汗をかきながら、西門の前に立っていた。
山東生まれの僕だが、潮州の陳とはなぜか気があった。おそらくお互いにうまく広東語がしゃべれないからかも知れない。
今日は陳のおごりだという。ケチなあいつらしくないが、目的は分かっていた。
中山路の裏手にあるその店の通りには、観光客らしい人たちはいなかった。表通りに店を並べているそれとは違い、間口も狭くちょっと陰気臭い。
赤提灯をくぐると、薄暗い灯りの中から少し痩せ気味の青服が現れた。
スリットから青白い脚が覗く。
晩上好。
ハスキーな声だ。
愛珍が、かげろうの笑みで僕を見た。
また痩せたかな、と思った。
身体に似て細い笑みを浮かべたまま、愛珍が奥のテーブルへ導く。
陳が僕の脇腹を軽くつつく。不満なのだろう。僕に何か言わせたいのだ。
叔父さんは元気?
僕が訊く。
ええ、相変わらず。
今日は神戸に行ってるの。
そう。忙しそうだね。
あっ。
こいつ、前に紹介したかも知れないけど、同じ日本留学生の陳。
愛珍の切れ長の目が少し動く。
陳の額には、まだ汗が吹き出している。もちろんそれは、暑さだけのせいではないようだ。
潮州出身なのに、こんなやつもいるのだ。 そこが僕が好きな理由でもあるのだが。
★なぜかは知らないが、今の日本では中国人というと一塊のようなイメージで報道されている気がする。
違っていたら、私の勘違いだが。
しかし、今中国と呼ばれている国には、どんなに少なく見積っても50くらいの言語があり、同様に民族も多様だ。
行ったことはないが、メロンで有名なハミあたりは、青碧の美しい瞳を持った少女が多いし、お年寄りの香港人だと標準語は分からないだろうし、簡略漢字を読んで理解することもかなり難しい。
チベットに関しては、日中不平等報道協定と、裏方、パトロンの関係があるから、報道できない。
いや、報道できるのだか、それはチョモランマだの長江源流だの、高原の動植物だのに制限されている。
そんな美しいものしか報道しない。
また、国内でのストの実態・裏方に関しても、知らんぷりして流さないか流せない。
さらに、大陸に進出しましょうときたもんだ。
呆れますなあ。
あそこで生き残るには、日本人の常識では到底太刀打ち出来ません。
つまり、個人レベルではすべて失うのが関の山。
だいたい、給料が安いって言ってますがねえ……。
いや、これ以上書くとまた消されそう。
ここまでとしよう。