じっちゃん、何食いてえ?
長男の昌彦だ。
すみつかれ。
はあ?
疲れたってか。
すみつかれ。
ああ、寝疲れでんのはわがったよ。
あんた、シモヅガレのことじゃねえが。
妻の道代が横から入った。
じっちゃん、シモヅガレが食いてえのげ?
老人は、何度も首を縦に動かした。
おい。
お前、作れっか?
いやあ、あだしは作ったごどねえなあ。
だいたい、あだしも小学校以来食ってねぇし。
誰が作れっかなあ。
二階屋のトミ婆さんなら知ってっぺ。
もう80んなっけど、まだ浅間山にチタケ採り行ぐぐれえだがん。
しかし、シモヅガレって、どんな味だったっけが。
忘れっちまったなあ。
作ったら俺も食ってみんべ。
★シモヅガレとはシモツカレ(下野飯=しもつけかれ)のことだ。
煮た鮭の頭などにおろし大根、大豆、人参、酒粕を混ぜたものを主たる材料とした、郷土料理、保存食である。
栄養・ビタミンなどの観点からみてもなかなか理想的な食べ物と言える。
チタケとはチチタケ(乳茸)のことで、シモツカレに入れることもあるが、一般的には味噌汁の出汁に使う。昔は子どもでも2、3時間あれば籠いっぱい採れた。が、今や栃木では松茸以上の値で取引されることもある代物だ。
残念ながら、今の家の近くでは見たことがない。

チダケサシ(乳茸刺)
これは、千葉の家の近くでも結構見られる。
この茎に、採っれたチタケを刺していたのだろう。
自然の恵みが消えていき、郷土の長い文化も消えていく。