[田舎小説]宮城その2:ダンダンドゥビドゥビ、ドゥバダ | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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お~れの~生まれたところは宮城県。


懐かしい歌が聞こえてきた。

年の頃は私と大差ない。
いや、その年代の宮城県人か、宮城にゆかりのある人しか知らない歌だろう。
このおっちゃんあたりは、若い頃はヘルメットに角棒持ってチャンバラでもしていたかも知れないなあ、などと思いながらおあいそうをした。


外に出ると粘りつく熱気だ。

一番町はもとの活気を取り戻しつつある。 が、客層が微妙に違ってきている。
かつてのように、先輩に無理やり呑まされて腰の立たなくなった学生の姿はない。 みな、懐と相談しつつ、形だけのお付き合いをするスマートさを身につけているのだ。


そんな中にあって、そのおっちゃんは2、3メートルは離れたい存在だったろう。



コンビニでしか売っていない、アルコールとメントールがきいたウェットティッシュで襟首を拭く。


と、背中を叩く者がいた。


振り返ると、さっきのダンダンドゥビドゥビドゥバダのおっちゃんだ。





おい、君。




なんだ?また、千代田公園みたいに説教でも受けるのかな。
私は怖いもの見たさに似た興奮を覚えた。




君。
君は、アヤシだろ!


うっ。鋭い。
確かに私は怪しいジジイだ。最近は、行ったこともないところに生まれたような小話を書いて憂さばらしをしている。
ある時は宝石ブローカー、またある時は占いを信じない占い師。そしてまたある時は植物学者を真似たり、あろうことか地球物理学を語ったりする。
引き算足し算だけで世の中なんとかなるさがモットーの文系一筋の私にとっては、さっぱり分からないことをさも専門の如く記事にしたりしている。
多分、そのうちテレビで、鉄学とか珍里学の専門家として話すこともあろう。


おい、君は、アヤシだな。

おっちゃんが、私の顔を覗きこむようにして、また同じ言葉をはいた。



まあ、確かに怪しいでしょうな。

私は適当にあしらったつもりだった。


違うちゃ。


きさまはアヤシだろ!



ええ、だから怪しいでしょうね。



この唐変木。
忘れちまったのか。
俺もアヤシの住人だ。


定禅寺通りの十字路が見えてきた。



アヤシの住人?



よーく、見てみい。


趣味ではないが、しばしおっちゃんを凝視した。




はっ!
ひょっとしてお前は、バケのポコりんか?



ったく、今ごろ気づいたかい。



おう。元気そうだな。



へっ。
ちっとも面白くねえ世の中になっちまったぜ。



ほう、ポコりんでも泣き言を言うのか。


てやんで。
最近はニッカも厳しくなって、なかなか酒を馳走になれん。



ふっ。

そんなことポコりんには関係ないだろうよ。
さっきのところでも、あれ使ったんだろう?


タクシーをつかまえるはずだったが、いつの間にか東照宮近くまで来ていた。


じゃあ、俺はこっちだから。
気付くと、すっかり汗が引いていた。
不思議な宵だった。



今夜は満月。

ポコりんは愛子(あやし)の原で踊り明かすに違いない。

枯葉のお金を使うのは法律違反だぞとは、ついつい言いそびれてしまった。



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