あーあ、全然食べれなくなっちゃったわ。
あらやだ、“食べれない”なんて。
あたしったら、へんな東京弁使って。
裕美は、40杯のわんこ蕎麦が喉まで詰まっているのを感じている。
高校の時なら60はいけたはずだ。
さあ、これからが長いのよね。
誰にともなくそう言い、上野で買ったひよこ菓子の入った紙袋をつかむ。
東への線路は、尺取虫のような線を描いて三陸へと誘う。
いつもなら気仙沼を経由して、山と海を心いくまで眺めながら、のんびりと東からふるさとに入る。
が、あれ以来、裕美は花巻経由のオーソドックスな道を選ばざるを得なかったのだ。
短いトンネルをくぐるたびに、南部松の匂いが濃くなっていく。
両脇を挟まれていた空間が、一気に開けた。
座敷わらし、おしらさまの里だ。
最近は、河童王国にもなったわよね。
早池峰のお山がどっかり腰を下ろし、うすく笑みながら久々の客を迎えてくれている。
ここは、日本で一番古い土地。
おしらさまはおろか、早池峰の裏には恐竜だって棲んでいる。
たぶん。