[しっとり小説・青森編]おいわぎさん | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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私は行かない


安達太良の少しエロチィックでもある山頂を見ながら、したたかビールを流し込んでいたのは覚えている。

気がつくと、はや盛岡を過ぎ、右手から姫神のなだらかな裾野が目に飛び込んできた。
左を振り返れば荒々しい岩手山が背中を睨んでいた。

また1缶開けてうつらうつらしているうちに、列車は終点の新青森駅のホームに滑り込んで行った。




奥羽本線の列車に乗り換える。弘前まではあと半時。

列車が弘前平野のとば口、浪岡に近づいた時だった。それまで薄く空を覆っていた雲が裂け、右手前に



ああ、おいわぎさんが……。



なぜか目頭が熱くなってきた。

私はそれを隠そうと、大きな音を立てて鼻をかんだ。

隣の女子高生がくすりと笑っている。



鼻水に、


また、私は鼻をかんだ。




おいわぎさん。



わだのふるさどだ。

わだのいのぢだ。





おいわぎさんは、静かに涼しい笑みを隠しながら、そんな私を見ているように思えた。






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