
桜も咲いてきた。

梅の甘酸っぱい香りの中に、少しばかり甘味ある空気が漂う。
今日も昼まで寝溜めさせていただき、握り飯など作って花見とでも洒落こもうかと思っていた。
が、少しばかり欲が出た。
この香りを、エレキテル飛脚箱にて運べないかと考えたのだ。
聞くところによれば、英雄どっこもけちでえ屋では、今日からそんな仕事を請け負い始めたという。
いささか遠いが、隣村まで三里の道を草鞋をつぶしながら訪ねてみた。
今日より香り運び屋を始めたなるはまことか。
へい、旦那。細身本に細工しまして、茄子の味噌あえから唐天竺鼠の臭いまでお運びいたしやす。
さようか。
では、拙者のこのエレキテル飛脚箱もかようにしてもらえぬか。
へい。では旦那の箱を見せていただけあせんか。
あちゃあ。
すいやせん、旦那。
これは無理でごさんす。
なにー!
こら、この英雄どっこもけちでえ屋。
拙者が傘張り仕事すらもらえぬ浪人とみて、愚弄する気か!
いいえ、滅相もねえ。
ただ、そのこれはちいと無理でござんして。
ええい。四の五のメクレルのベクレルの言いやがって。拙者のなりをみて門前払いするつもりであろう。かくなる恥をかかせるなら、この太刀で……。
あの旦那。誤解しねえでくだせい。お武家さまにそんなこたあしやしません。
お武家さまの箱が古すぎて、いやたいへん貴重な年代物ですんで、あっしにはとても扱えない物でござんすから。
このような由緒ある箱をお持ちとは、さすがお武家さまでいらっしゃいます。
うん!
さようか。
さほどの年代物か。
へへい。
このような物は、あっしにはとても触れられる代物ではござんせん。
そのまんま、大事に扱いいただけた方がよろしいかと。
さようか。
ふむふむ。由緒ある年代物か。
ふむふむ。であろう、であろう。
拙者は、新たな草鞋に履き替えて、三里の道を引き返してきた。
ねえ、あんた。えらい大声がしてたけど、何かあったのかい。
ああ、隣村の水呑みざむれいが来たから、体よく追い飛ばしただけだ。
なんか、長いものを抜くとかなんとか言ってなかったかい。
はっはっは。抜けやしねえよ。
銀紙貼った竹みつなんざ。







