南洋英雄伝説:タマランガー | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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最近はトンガからの直行船が出るようになったものの、当時ポロンガポン島へ渡るのはたいへんなことだった。

まず、羽田からマニラ経由でシドニーに降りたつ。
ここから週に2便しかない、トンガ行きの便に乗り換える。

トンガからは船の旅だ。
ヌクアロファから遊覧船より小さな船に乗り、2日かけてパンドロンガ島に着く。
パンドロンガ島からは、ヨットに毛がはえた程度のモーターボートで半日。
やっとポロンガポン島だ。

今日は、このポロンガポン島にあった、うらやましいような、いや修行僧も泣き出すくらい過酷な祭りについて語ろう。


珊瑚礁に囲まれ、周囲の島と隔絶していたポロンガポン島は、当時は西洋人にとっては無人島と思われていたようだ。

胡椒の原種を探し求めてカーパンナイル卿がその島を訪れたのは、18世紀末のことである。


ミクロネシアとメラネシア、ポリネシアの交わるポロンガポン。


カーパンナイル卿が興味を持ったのは、ヨウバァーイと呼ばれる祭りだった。

年に一度行われるその祭りは、若者たちの力比べのように思えた。
ポロンガポン本島から2キロメートルほど離れたチッペ島に渡り、一番大きなタワランガ(ウミウの仲間)を捕まえてきた者が、その年のヒーローとなる。

この祭りは、単なる祭りにしてはかなり凄惨なものだ。

チッペ島へ渡る前に溺死する者、仮にタワランガを捕まえて戻るにしても、途中で力尽きる者もいた。
さらに、男同士が相手の足を傷つけ、アオザメに狙わせようとする者、他人の捕ったタワランガを横取りする者。

この祭りでは、必ずと言ってよいほど何人かの犠牲者が出た。


しかし、ここにミステリーがある。

毎年こんな祭りをしていたなら、島の男たちは早晩いなくなってしまうはずだ。

が、この祭りはポロンガポン島が出来たときから続いているのだという。

いつから人がこの島に住むようになったかは分からないが、数百年は経っていると思われる石像があるから、かなり長い期間祭りをしてきたのは確かに思えた。

その石像は、タワランガを掴んだ英雄の姿だったからだ。





えっ?

いや、祭りが過酷だというのは、このことではない。

この後の英雄の使命だ。

まる1ヶ月の間、英雄は10キロメートルほど離れたミュウミュウ島に渡らなければならない。

ああ、一人でな。


そこで待ち受けているのは、女、女、女……。


島には女しか住んでいない。




はあ。うらやましいって。


冗談じゃない。

英雄は毎夜8人。
1ヶ月の間、休みなくお仕事をしなくっちゃならない。




ポロンガポン島を出るときには精悍だった英雄が、島に戻ってきたときには骸骨のようになっている。

島に生きて戻れた英雄は、タマランガーと呼ばれる。
ああ、タマランガーだよ。
ミュウミュウ島では女たちの神、ポロンガポン島では男たちの神だ。
3歳になると、ミュウミュウ島の男たちは、すべてポロンガポン島に返され、ミュウミュウ島には女と赤子だけが残る。




タマランガー。

どうだい。


それでもうらやましいかい?

儂にはたまらんがね。