
タイ・バンコク、ドンムアン空港からアユタヤに向かって北へ10分ほど走ると、右手にタイ民家を大きくし、派手なランタンを目一杯付けたような店が見えてくる。
地元の人に教えられ、私たちは初めて、その店に車を着けたのだった。
「旦那、好きなのを選んでくだせえ。あっしについて来てくれやせんか」
浅黒い肌の男が、そんな仕草をした。
一番若く、当時は今よりもはるかに怖さを知らない私が、その男の後を追う。
「さあ、選んでくだせえ」
男は、カーテンでも開けるような顔で、その檻の扉を開けたのだった。
ギャーッ!
と、声には出さなかったが、実は身体が凍り付き、声を失っていた。
腕よりも太く、短いヤツでも3メートルはあるであろうそいつらが、足元に最低10匹は忍び寄ってくる。
男は、少し意地悪そうな笑みを浮かべて、私に選択をせまった。
私は、やっとのことで動く顎を揺らし、それに答える。
キングコブラ。
1匹でも十分すぎる相手であった。
しかし、このチャーハンは、私が食べたものの中では桁違いに旨いものだったが。
20年以上経った今も、その味は、舌がはっきりと覚えている。
