
フードテーマパークなるものを、不勉強にしてしりません。
いろんな国々の食べ物が、それぞれ特徴あらる屋台を連ねたようなところを言うのでしょうか。
もしそうならば、私が大好きな場所の一つでしす。
屋台というと東南アジアの、脂ぎった箸とシェンツァイ、ニンニク、白檀、甘い果物の匂いや臭いが入り混じった、なんとも形容し難い雰囲気が浮かんできます。
広東語やタイ語、シングリッシュ、チングリッシュ、福建語、マレー語、インドネシア語、タミル語などが、カチャカチャと皿をつつく以上に鼓膜を刺激する雑踏。
そこには、マンゴスチン、パパイヤ、ランプータンが山と置かれ、1メートル近い伊勢えびの仲間や、カブトガニ、さらにはコブラさえ並んでいるわけです。
粘り気ある、炒めたニンニクから放たれる微粒子が、南国暮らしで開きっぱなしになった汗腺の中に塗り込まれていきます。
ゴロンゴロンと遠くで音がしたかと思うまもなく、あっという間にくるぶしまで浸るほどのスコール。
線路に店を出していた屋台は、たまに通る列車の時と同じように、慌ててビニールの屋根をたたみ、客は食べ物の入った皿を右手に、ビールを左手に、食べかけの焼き鳥を口にくわえながら、一斉に雨宿りできる場所、例えば椰子の木の下の取り合いをし始めるわけです。
一時静かになった広東語が、雨音以上の激しさで空気を震わし、足元には、食い散らかされた鶏の骨が、行くあてのない水に浮かんだり、沈んだりしています。
しかし、ものの半時もすれば、またあの太陽のが戻ってきます。
しかし、その頃は、ジリジリと肌を焼くそれではなく、西の空に膨張赤く歪み、常夏にも、一瞬の涼しさをもたらすのです。
起きだした大型のコウモリが、群れをなして茜色の空を埋めつくし、ホエザルに似た声の野鳥がわめき出して、南国の夜はふけていくのです。
へい、旦那。
美味いものがあるから食べに行かないか?
と、イサーン(厳しい自然の中にある農村)出身の彼は、少し目を反らしながらそう言った。
そうか、奢れということだな。
私たちはトゥックトゥックに乗って、その巨大な屋台街へと向かった。
そこは、街全体がニンニク以上に鼻を刺激する臭いに包まれていた。
料理が運ばれてきた。
それは、炒められたため焦げ茶色にはなっていたが、一目で何かは分かるものだ。
皿には、その炒め物だけが山盛りになっている。
肉も他の野菜やらも入っていない。
私の食べたもののなかでも、決して忘れられない味の五指に入るもの。
そうだ。
それは、赤唐辛子をラー油で炒めただけの、実にシンプルなものだった。
が、残念ながら、あるいは料理人には失礼ながら、私はそれを残さず食べることはできなかった。
いや、愛嬌に、泣く泣く二本食べるのが精一杯であった。
例の男はムシャムシャと、まるでレタスでも食べるように、茶褐色に焦げたそれを胃のなかへ入れて行った。
フードマーケットというのかどうかはわからないが、あの店のあの料理はご遠慮したい。
ただし、その近くで食べたキングコブラとワニ肉チャーハンは、予想に反して絶品であった。
いや、香港や上海でも、それ以上に美味いチャーハンを食べたことがない。
このチャーハンは、私の食べたもののうちでは、最も感動したもののベスト3である。