
★白瀬さんの場合
昨日までの嵐が嘘のように止み、耳が痛くなるほどの静寂があたりをつつんでいた。
おおっ。
白瀬は、つい声にしていた。
白一色の地面が黄金色に輝き、6ヶ月ぶりの太陽が顔を出したのである。
今朝の気温は、-32度。
ずいぶん温かくなってきた。
昼には零度近くまで上がる日も、そう遠くはあるまい。
もったいぶったかのように、まだ顔半分しか見せず、地平線を這うようにしている太陽を見ながら、白瀬は思った。
★ジャウチュウさんの場合
なんという寒さだ。
体がこわばり、あまりの寒さに全身が痛い。
こんなに寒くては、仕事にも行きたくなくなる。
考えてみろ。
この寒さの中を、バイクだぞ。もし、途中で手がかぢかんで運転を誤ったらどうする。
やっぱり止めよう。
今日は休みだ。
しかし、こんなに寒かったなら、雪とかいうやつが降るかも知れないぞ。
ジャウチュウは、壁に掛けてある時計を見た。
そのデジタル時計は気温表示もされている。
18度。
通りで寒いはずだ。
11月。雨期真っ盛りである。
こんなに寒いのに、ワニやカバはよく水に入っていられるものだ。
ジャウチュウは感心しながら、またハンモックに横になった。
★ある爺さんの場合
ただいま。
やはり、いつも通り返事は無かった。
部屋中の明かりが付けっぱなしだ。
いや、一部屋だけを除いて。
爺さんの冬は、まだ明けない。