【小説】ユカタンへ、そしてチチカカへ その3 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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ァパッたちがキサを追い、ワッカ・ナイから白い動く大地を渡ってから長い長い年月が流れた。 

しかし、星を見て日々の生活を営むことは、子どもの時から身についてしまっている。 

止まり星が頭の天辺にくる、年中氷の世界が広がる極寒の地に根をおろしたものたちもいた。 

そこは、占い師が言っていたような空が七色に燃える所だった。 
一年の半分は昼だけ、一年の半分は夜だけの世界だった。

が、不思議なことに、この地では喉の中で暴れ、息を苦しくさせる悪魔がいなかった。それに、太陽が一日中低い所を回っている時には、ほんの少し顔を見せた地面に甘い小さく赤い桃も見つけることもできた。 
それより、とにかく食糧には困らない。

白い動く大地が、どこまでも続く青い水になる頃やってくる泳ぐキサがいたからだ。 

彼らはそれをダダと呼んだ。 

キサ(マンモスの仲間)は地上から消え失せていた。 
ダダはキサほど大きくはないが、ヒトの何十倍の重さを持ち、その長い牙をもつ海獣は、確かにキサが海で生まれ変わった姿なのだ、という占い師の言葉を信じさせるものがあった。 

ちなみにダダとは、彼らの言葉でオヤジという意味だ。 
ァパッもオヤジの意味ではあるが、ダダにはより親しみを込めた、彼らの糧に対する感謝の意も含まれている。 


夏の間に捕ったダダを氷穴に置いて置けば、荒れ狂う夜の半年も、その皮にたっぷりある脂で何とかしのげた。 


だから、この極寒の地にも、わずかばかりのァパッの子孫が暮らすこととなったのである。 

彼らは自分たちのことをア・イヌヒット(生かされている者:ヒト)と呼んでいた。が、やがてアの音が消え、イヌヒット、そしてよくあるh音の母音化でイヌイットと呼ぶようになる。

一方、わずかにワッカ・ナイに残り、やがてまた南の島に戻った人たちは、ア・イヌヒットの後ろが省略されア・イヌ、あるいは前の音が消えてヒットと呼ぶようになっていく。

が、これはずっと後の話だ。



さて、キサを知らなくなってしまっていた多くは、伝説に聞く、年中緑に覆われ、太陽が頭の真上までくるンナミネゲブを目指し始める。 


ここでも、止まり星と回る星々が、彼らを南の楽園への道しるべとなるのであった。 



彼らの星への信仰ができつつあった。 



        つづく予定