【小説】ユカタンへ、そしてチチカカへ その2 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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ァパッに引き連れられた二百人あまりの一行は、やがて動く白い大地に出た。 
そこは、冬になり一面が氷に覆われたワッカ(ヘビのような水の流れ:川)にも似ていたが、その対岸がどこにも見えない。 

ァパッたちは、途中で合流した同じア・イヌヒット(生かされているもの:ヒト)と共に協議を続ける。 

この白くだだ広い川のこっち側の岸の砦、つまりワッカ・ナイはしばしの休息所となるはずだった。



が、 



“キサーッ!キサーッ!”
物見のけたたましい声が、皆の眠りを打ち破った。 

どこに隠れていたのだろうか。 

キサの大群が、ァパッたちがやって来たンナミネゲブ(熱の土地:南)から現れたのである。 
そして彼らは、巨大な巻角を持った雄キサの後に続いて、白い動く大地をヒッタ(北)に向かって歩み続けている。 

あるいは、カムイ・ヌプリ(神々の住む山)からやってきたのかも知れない。 

ア・イヌヒットたちは、彼らの延々と伸びる列に神々しいものを感じ、空腹も狩りをすることも忘れ、黙々と移動するキサを眺めるばかりだった。





キサの列は3日3晩続いた。 

が、その後は何日経ってもキサのいななきひとつ聞こえなくなった。 


幸いワッカ・ナイの崖には、オロロン・クロース(よちよち歩きのカラス)がうじゃうじゃ集まるようになってきたから、腹は満たされる。 

が、冬の間キサの肉に馴れ親しんだ胃袋には、どこかもの足りない。 



“やはり、ヒッタへ進もう……。キサもヒッタへ動いている。何かがおかしい。我らもヒッタへ”

ァパッが声を上げた。 


今民は1000人以上に膨れ上がっていた。 

いくらオロロン・クロースたちが多くかろうと限りはある。
それに、キサ狩りから遠ざかり、体力をもてあましてしまっている男たちの中には、掟を破ってコホリワリが雪から黄色い花を見せる前に、女を追いかける者まで出てきた。 



“イッシャー”


ァパッは雄叫びをあげ、巨大な巻角キサの如く、その先頭に立って“動く白い大地”に足を踏み出した。