“えっ?新幹線取れないの?”
“ええ、ごめん。2週間前から満席らしいんだ”
“やだやあ、じゃあ仕方ないからA航空か”
マネージャーの岸は、苦虫を噛み潰したような顔になり、うつむきながらボソボソと言った。
“ごめんよ七ちゃん。そのう、J航空しか空いていないんだ”
“えっ?ダメだよ。僕が飛行機嫌いで、どうしようもない時でも、A以外乗らないの知ってるでしょ”
“うん”
岸は左胸のポケットに手をやる。が、そこにあるはずのマールボーロはない。
岸は、先月妻の妊娠を知った後、禁煙を誓っていたからだ。
“キャンセル待ちでもいいから、何とかならないの?”
世界的に有名になった持ち歌同様、常に笑顔を絶やさない七にしては珍しく食い下がった。
が、今にも降りだしそうになってきた岸を見て言う。
“まあ、いいか”
そこには、いつもの七の屈託のない笑顔があった。
七は岸に向けた笑みとは裏腹に、得体のない寒さを感じ、あの時以来肌身放さす身に着けている笠間神社のペンダントを握りしめた。
Lock on.
Roger.