あらっ?
泥棒様でもお出ましになられたのかな?
家の中がひどく殺風景に感じた。
読んだページを開けっ放しにして、ソファーやらテーブルの上に散らばさせていた古本の山がない。
もしや?
と思い和室に行く。
げっ!
一瞬めまいがした。
本ならばまだいい。
希少本とはいえなんとかなる。
が、私が30余年かけて日々綴ったノートが、
すべてない。
あれは若い時から、ボーナスやら毎月のわずかな給料をやりくりし、そのお金で全国をまわり、その風習について、自分の目と心で感じたことをメモしたものなのだ。
ああ、なんということだ。
私は怒りや悲しみとかいう感情を無くし、ただ呆然と畳の上であぐらを組むしかなかった。
どれほど経ったろうか。
湿り気ある眼(まなこ)で寝室に入る。
その部屋に置いておいた、子どもの頃からのアルバムも無くなっていた。
新しくなったシーツとカーテンが、泥棒が来たのではないことを教えていた。
と、玄関が開いて、明るい声が聞こえてきた。
「きれいになったでしょ。汚い本とかノートを捨てるの、大変だったんだから。ねえ、こんなに頑張ったんだから、何かプレゼントして!」