ピンポーン。
また、チャイムが鳴りました。
室内灯が落とされます。
まずい。
こんな状況で、寝られるわけがありません。
と、天の助けか。
彼女がトイレに立ちました。
もう、すべきことはただ一つ。
三十六計逃げるが勝ちです。
私はアタッシュケースと上着を持って、先頭右側の翼付近の席から、まさに脱兎の如く、最後尾に近いエコノミー席に移動しました。
多少狭いですが、まあ、隣に得体の知れない方がいて、へたするとこっちが犯罪者になることを考えれば、はるかに気が休まります。
いくらなんでも、機の先頭の方から最後尾までは来ないでしょう。
だいたい、薄暗いし、また、そこまではいくらなんでもしないでしょう。
しかし、機が満席でなくてよかった。
さらに、スチュワーデスさんもある程度わかっていてくれた様子。ラッキーでした。
が、私は朝日に輝くチャンギ・シンガポール空港が見えてからも、また、税関を通り抜けからも、なにか冷たい視線のようなものを感じ、しばらくは人心地つかなかったのです。
今でも、その時の女性の顔つき、すごい握力はよく覚えています。
そう言えば、その“女性”の指は、ひどく節くれだっていた気がします。
タイやシンガポールには、女優真っ青の“彼女”がたくさんいることはよく知られています。
果たして、あの時の彼女が“彼女”であったかどうかはわかりません。
私が人生で数少ない、必死になり逃げ隠れた事件でした。
なーんだ。全然怖くないじゃないか。
そういうあなた。
怖いものとは、人によって差があります。
例えば私は、お化けや幽霊は全く怖くありません。
むしろ、現れてくださるなら嬉しいくらいです。
警察の方も、なぜか親近感のようなものが湧きます。
……………………………
今は、逃げることはあまりしません。
なぜ?
隠れても術の未熟な私は、尻をのぞかせたたままですから。
だから、ブログにかなり正直な意見なんかを書いたりしているわけです。
おわり