スチュワーデスが昼飯を運んできました。
と、彼女が私をツンツンします。
“これどうするの?”
ビニールパックされたナプキンの開け方がわからない、というのですなあ。
ずいぶんわざとらしい問いです。
が、当時の私は今のように斜めから人を見るようなことはしませんでしたから、ビニールを開けてやり、それを手渡しました。
と、彼女は必要以上に私の手のひらに触れながら、ずいぶん長い時間かけてナプキンを受け取りました。
ありがとう。
これまた、ずいぶんわざとらしい媚びた目を向けてきましたが、純情な私でも何かしら普通でないものを感じ初めていました。
隣に細身の女性が座った時のラッキー!という気分が、いささか重いものに変化していったのです。
彼女はワインを追加オーダーしました。
と、手元がくるったのか、酔いが回ったのか、グラスを傾かせてしまい、紅い液体が私のズボンにかかりました。
彼女はトロンとした目で私を見つめ(私はあまり彼女と目を合わせないようにし始めていましたから、これは想像)、私のズボンにかかったワインを拭き取ろうとします。
私は、大丈夫ですからと言いながら、自分でナプキンを取ります。
が、それでも彼女は私の太ももあたりに手を伸ばしてきます。
それを制そうとする私の手を、彼女が掴みました。
思いのほか強い力です。
あなたは酔っるみたいですね。
私は、まだ紳士的に言いました。
が、彼女はなんとへんな声をあげ始めたのです。
私は優しく、しかし、なにかひどく冷たく凍りそうなものを背中に感じながら、ゆっくりと言います。
彼女は身をくねらせながら、さらに危ない声を出し始めます。 私の手をしっかり掴みながら。
前に座っている乗客も、異様な雰囲気に後ろを振り返り出しました。
知らない人が見たなら、私が女性の手を無理やり、私の危ない部分にでも持っていかせようとしているように感じたことでしょう。
私には、仮に大好きなタイプでもそうした趣味はありません。
が、状況は逼迫しています。
どれだけ時間がたったでしょうか。
おそらく10分とか、20分。いや、ほんの数分だったかも知れません。
しかし、私には何時間にも感じました。
スチュワーデスがディッシュをさげに来ました。
彼女はさっと私の手を放し、何事もないそぶりです。
つづく