
おじいさんは、大きな二つコブがある山の麓の、なだらかな丘をすべりながら芝割りに、おばあさんは、一月毎に潮が満ちる川へ、身体の火照りを冷やしに出かけました。
と、芝割に精を出していたおじいさんの唾が飛んで、おばあさんにかかりました。
と、あらあら不思議。
おばあさんのお腹が大きな桃のように膨れていきます。
と、桃の、縦に筋の入ったくぼみから、オギャア、オギャア……。
★発祥年不祥:伝承物語「桃太郎」より
「いやあん、いい男やわーん」
「お前も、ええ女やないけ」
「あらっ、でも変やわ。あんたはんには、何か突き出た棒みたいもんついとるやん」
「お前も、よく見りゃ、ちいと変やぞ。変な穴が空いとるやんか」
「ああ、ほんまに変。それ見てたら身体が火照ってきよるんよー」
「俺も変だ。その穴見とったら、心臓がばくばくし始めた」
「どないしょ。あたしおかしくなっちゃいそうやわん」
「ほれ、あそこにいる鶺鴒(セキレイ)見てみぃ。なんか二羽がくっついて気持ち良さそうに尾っぽを動かしてるぞな」
「あたしたちも、あれの真似してみようよ、ねっ」
「真似って、どないしたらいいねん」
「うーん、鈍感!!だから、あんたはんの突き出た棒みたいのを、あたしの穴の空いた……」
★約1300年前に作られた国定教科書(古事記)より抜粋、しま爺による現代語訳
今も昔も、人の世は一緒だ。
5000年前のメソポタミアの楔形文字を知らない人でも、楔形文字で表されたシュメール語の『女』という文字を見れば、9割以上の人が頷けるだろう。
人間3000年や4000年程度では、たいした進歩はしていない。
だから、昔という言葉は、人の心の歴史書にはない。