
アトランタ五輪と言っても、若い人は知らないでしょうね。
Qちゃんがマラソンで金メダルを取った、シドニーオリンピックの前にあった五輪大会です。
その大会で、誰がどんなメダルを取ったかは、忘れてしまいました。
が、決して忘れられない光景があります。
それは、普通ならあまり記憶に残らないはずの、聖火の最終点火者とそのシーンです。
最後の最後まで、報道陣にも明かされなかったその人は、かつてのボクシングヘビー級王者モハメッド・アリ、その人でした。
聖火を受け取ってから点火するまでの短い、しかし、当時の彼にとってはひどく長く重かったであろう何秒かを、今なおはっきり記憶しています。
彼はかつては世界の英雄でした。その後パーキンソン病に倒れ、長らく公に姿を見せることはありませんでした。
が、私にとっては恐怖すら覚える強さと、猪木をからかうステップの持ち主でした。
その彼が、私のイメージにあったブルドーザーではなく、今にも倒れそうな、すぐにも朽ち果てそうな姿となって、全世界に生中継されてしまったのです。
私は涙が出そうになりました。
また、怒りのようなものさえ込み上げてきました。
アトランタ五輪は、商業主義を全面に出した大会でした。
しかし、いくらなんでも、あれはやりすぎだろう、とも感じました。
20世紀を代表するスポーツ選手に選ばれたモハメッド・アリ。
彼は最後まで、憎いくらいふてぶてしく、強くあって欲しかったのです。
アトランタでの黒人の立場も考え合わせると、いまだに複雑な思いがする、アトランタ五輪のモハメッド・アリでした。