
「お弁当は温めますか?」
驚いたような目をした、学生アルバイトらしい女の子が、マニュアルどおりの質問を投げ掛けた。
会社に戻れば電子レンジがあるが、私はあと少しその子を見ていたい衝動にかられ、「ええ、……すごく熱めで!」と答えた。
少女は、また豆鉄砲をくらったハトの目で私を見つめる。
マニュアルにない答えに動揺したのか、頬に少しばかり紅が射した。
チーン。
ホッとした顔で、女の子は弁当を銀色のプラスチック袋に入れ、ありったけの笑顔でそれを差し出した。
その笑顔に、私の冷えきっていた心も、少しばかり温かくなった。
電子レンジ。
あれはすべてのものを温めるわけではない。
実は中味を温めるだけであり、包装しているプラスチックの箱は温まらない。 温まったように思えるのは、中味の熱が伝わっただけである。
あと少し正確にいえば、ご飯やコーヒーの中の水を温めている。
ところで、小学校の理科の実験で、2つの音叉を並べ、片方をハンマーで打ち音を出すと、もう一方の音叉も音を出す、というのを覚えておいでだろうか。
これを共鳴と言いましたよね。
実は、電子レンジも同じような共鳴を利用した器械なのです。
水も分子単位、つまりたいへんミクロの世界では、常に揺れ動いています。
この揺れの周波数、1秒間に揺れる回数は決まっています。
これと同じ周波数を器械から発生させることにより、レンジの中にある食べ物の水分が、共鳴振動して熱となり、食べ物全体が温まるという仕組みです。
このような揺れ、振動は物質により周波数が決まっており、クウォーツ(水晶)発信時計、あるいはレーザーなどに利用されています。
こうしたミクロの世界ではなくとも、どうも私たちの体や心に共鳴する振動というものがあるように感じます。
モーツァルトの音楽を聞かせたアルファルファ(牧草の一種)の生長が促進されたとか、乳牛の乳の出がよくなったなどの話を聞いたことがあります。
10年くらい前には、こうした話が広がり、モーツァルト音楽が驚くほど売れたことがありました。
モーツァルトに限らず、音楽には何か心を癒す働きがあるように思います。
同時に興奮、高揚させることも、発狂させることもできますが、やはり音楽をゆったりと心の栄養やセラピーとして聞きたいものですね。