風の街 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

しま爺の平成夜話+野草生活日記

世間を少しばかり斜めから見てしまうしま爺さんの短編小説や随筆集などなど
★写真をクリックすると、解像度アップした画像になります。

【新生活キャンペーン】朝の目覚め、良いほう?悪いほう? ブログネタ:【新生活キャンペーン】朝の目覚め、良いほう?悪いほう? 参加中


先程までの荒れ狂ったような風がやみ、急に静寂が訪れた。 

雲の切れ間から、少しばかり寂しそうな太陽が顔をだしている。 


それは地平線ギリギリではあるが、確かに1月の、まぎれもない夏の到来を告げていた。 


私は急に人恋しくなり、トレンチをはおって部屋を出た。 


街はひっそりと沈みかえっている。 


もう、みな寝てしまっているのかも知れない。 

すらりと伸びた透けるような脚が魅力の、長い黒髪のウェイトレスのいるコーヒーショップも、冷たくシャッターを閉めていた。 


と、カランカランと乾いた音がした。 

野良犬がゴミ箱をあさっている。 


こんな時間に外をうろついているのは、どうも私とそいつだけらしい。 



1月の、ほとんど沈むことのない夏の太陽も、この時刻ともなると、わずかに地平線の下に顔を隠す。 



午前1時半。 


世界中のキャプテンが恐れ、世界一周の栄誉を祝し名付けられた海、マゼラン海峡に近い、ここアルゼンチン、フエゴ島のウスワイア。 


南緯55度のお正月。 




今、夏真っ盛りである。 

太陽は姿を隠したが、日本ならさしずめ黄昏時だ。 

もうすぐ、また、太陽が地平線を削るようにして顔を出してくる。 



私はトレンチの襟を立てながら、ホテルへと引き返し始めた。 




ガタンガタン。 




今度は、少し大きな音と共に、狼の遠吠えのような声が聞こえてきた。 



スススッと、黒い影がよぎる。


ムラートたちの間で、黒猫が目の前を走り抜けるのは、不吉の前兆だ。


さあ、一眠りしておこう。


明日の朝、いや、今日の朝も寝覚めは悪そうだ。


……………………………

これはフィクションです。 
私はアルゼンチンにも、フエゴ島にも、また、火星やバーナード星にも行ったことがありません。