
食べ物ネタなら、任してください。
今や缶コーヒー買うにも、駅前で120円出して即喉を潤すか、会社まで我慢して100円にするのか悩むような毎日ですが、かつては、ミシュラン三ツ星レストランを常宿とし、そこを去るときには、シェフ手作りの料理をプレゼントされたこともある(これは、和平飯店の年1回のスペシャルパーティーに誘われたこと同様、結構自慢したい。)しま爺でございます。
中国田舎の腐ったような魚料理から、ノートルダムの鳩料理まで食べておりますぞ。
食い意地は、相当あるのですなあ。
だから、良くも悪くも、印象的な食べ物は、しっかり味も覚えております。
さて、そんな中で“美味しいが食べにくいもの”筆頭は、
タイ、バンコクからアユタヤに向かって北上すること、約1時間。ドンムアン空港からだと、バンコク市街と反対方向に走ること約20分。
高速道路右側に、タイ民家を連ねたようなレストランが見えてきます。
地元では有名なコブラ料理専門店。
怖いもの見たさに、一度現地人に連れられて行ったことがあります。
食材選びに行き、目の前でキングコブラの檻を開けられ、すぐ足下まで黒光する私の腕より太い丸太のようなヤツに睨まれたときには、さすがに体が凍りました。
しかし、驚いたのは、その味です。
ワニ肉も入ったコブラチャーハンは絶品。
香港やシンセン、あるいは上海でも、これ以上美味いチャーハンを食べたことがありません。
一緒に行った日本人すべてが“滅法美味い”と言っていましたから、私の舌がおかしいわけではないでしょう。
難点は、小骨があり、時々チクリとすることですかね。
なお、これは特別美味いというわけではないのですが、ゲテモノなんでもござれの私が、ちょっとばかりひるんで、ナイフを持つ手が止まったことがあるものがあります。
ケスケ・セ(これ何)?
私はとにかくフランス語に慣れ、1人アルプスの山奥で暮らさなければならなくなった頃。
言葉を覚えるには、飲み屋が一番だが、そこには、警察官が勤務中に一杯ひっかけるブルゴーニュワインの立呑屋程度しかなく、色気ないことこの上ない。
私は、かわいい店員のいるレストランに行く。
で、そこで出てきた自慢料理。
“……”
彼女は何か言ったが聞き取れない。
ポカンとしている私に、マドモアゼルは満面の笑みを浮かべて、こう言った。
“ラパン”
彼女はそう言うと、両手を耳にあて、その白く長い指を上下させた。
えっ!
私は、豚や牛、あるいは鶏の肉なら平気で食べているくせに、かわいいペットとしてのイメージしかなかったその動物のパテに、ナイフを入れるまでにしばし時間を要した。
これと同じような経験が、ノートルダムで有名なレストランでもある。
その店に入ると、日本では平和のシンボルとして知られている純白のそれが、寂しげに羽ばたいていた。