【連載】エーデルワイスの咲く丘で 4 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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ピンポーン

チャイムに続いて、給油着陸のアナウンスが流れた。徐々に高度を下げているのが、鼓膜の痛みからわかる。

何時間たったろうか。 
あたりは、いまだに暗闇に覆われ星以外に明かりは見えない。 
いや、地上に目をやると、だいだい色の米粒のような光が揺らめいていた。 

機体が高度を下げるにつれ、それはろうそくの炎に見え始める。 

原油採掘の煙突から立ち上る、あやしい光だった。 

そこで私は、旧約聖書のソドムとゴモラの話を思いだした。欲望渦巻く町となった両町に、天罰がくだる話だ。 
まだその頃は、旧約聖書は映画にでてくる場面場面、つまり、十戒のエジプト脱出とか、サムソンとデリラ、あるいは西欧絵画でよく題材となるアダムとイブのことぐらいしか知らなかった。
 
たから、ソドムを抜け出す時に、ロトの妻が約束を破って後ろを振り返ったため石になり、死海ほとりにある塩柱がそれだ、などという伝説があることまでは知らなかった。 


振り返ると災いがもたらされる。 

旧約聖書とは、人生論なのだろうか。 
過ぎ去った人生を、未練がましく思い出してはウジウジするな、ということだろうか。 


また、あれを見てはいけない、これをしてはいけないというタブーは、世界中どこの神話、伝説にも見られる、と言っても過言ではないくらい普遍的にみられる。
しかも、必ずその掟を破ってしまう。
 


日本神話の、黄泉の国にいるイザナミに会いに行き、「振り返って見ちゃだめ」と言う言葉に反して、醜い妻の姿を見てしまったイザナギの話。 


ギリシャ神話で、開けてはいけない箱を開けたパンドラ。 
約束を破ったために、老人になってしまった浦島太郎。 

つる女房、へびの夫、雪女、……。 


人は、約束を破ってしまう生き物らしい。 



話を戻そう。 


カクンと軽い衝撃があり、飛行機は暗闇の中に、こうこうと光る二本の誘導路の中を進んでいく。 


が、数秒後、私はある不安のようなものにとらわれた。 

何かがへんだ。 
とっさには思い浮かばなかった。 


そうだ。 
バックファィアー、逆噴射がないではないか。 

航空機は、着陸後、間をおかずして逆噴射し、ブレーキをかけ停止させる。 


? ? ? 



         つづく