チャンギ空港には、出発1時間前に着いた。
まだ、早すぎる。
ラスト・コールが流れる直前くらいに搭乗手続きをし、自分の名前が呼ばれるくらいじゃないと、ファーストクラスへの席替えという天恵は訪れない。
焦りの色を見せるケブちゃんを横目に、重量チェックのお嬢さんに冗談を言いながら、9キログラムオーバーのサムソナイトを見逃してもらい、私はのんびりとゲートへと向かった。
チャンギ空港は、世界一と言われたこともあるほど、ショップが充実している。
フランスに行く途中立ち寄る、ロンドン支店の駐在員の為に、お土産を選らんでいるうちに、私の名前が呼びだされていた。
搭乗口には、いささか苛立ち気味の係員が待っており、搭乗券を切ると同時に飛行機とのゲートを閉じた。
残念ながらファーストクラスへは移してもらえなかった。
搭乗率は8割というところだろうか。
大半は、給油地のドバイ、アラブ人である。
ちらほらと西欧人の顔も見られるが、東洋人らしき顔を確認することはできなかった。
そりゃ、そうだろう。
もし、日本から西欧に行くなら、今使っている南回りの半分以下の時間でつける。
さらに、地球の自転と反対方向に飛ぶから、夜出発したなら、まる1日近く暗闇の中を飛ぶだけの、実に面白みの無い旅だ。
ある程度旅慣れた人には、その方がありがたい場合もあるが、私なんぞはいくら飛行機の旅をしても、やはり風景を楽しみたかった。
一旦、インドネシアの海に出、島に別れを告げるように旋回した機体は、一気に機首を持ち上げ、南国の漆黒の中に真珠をちりばめたような光瞬くシンガポール島をあとにした。
つづく