モウセンゴケ---サギーの末裔 第9話 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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いつ寝てしまったのだろうか。耳の中を虫が這うような、得体の知れぬ不快感に目が覚めた。
キィー、キィーと、ガラスを引っ掻くような音がしている。

音の合間に、ボソボソとした話声が聞こえてきた。

「ばあちゃん、今度は考えてくんろ。兄ちゃんは、おらのごど助けてくれたんだど」

「うんにゃ、だめだ」

老婆が、即座に答えた。

「だども、兄ちゃんは・・・」
消え入りそうな少女の声。

「これは、ご先祖様からの掟じゃ。おめえのカカアは掟破りの罪人だがら、どごでくたばろうがかまねえ。だども、おめえには、おらが死んだあど、立派に四十二代目の鷺使の香里様を継いでもらわにゃなんねえ」


キィー、キィーと、またいやな音が鳴りだした。



「わがった、ばあちゃん。ほんじゃ、ひとつだげわがまま言っていいが・・・」




しばらくの間。



静寂が庵全体を覆い、その重みに、天井が圧し潰されそうになっている。





「兄ちゃんに、情けっていうのかけさせてもらっていいがい?」 





不快な音が止まった。



「おめえは、まだ生娘だっぺ。なんで、そんなごど知ってんだ」




また、音のない時が過ぎる。


その重みに耐えかねた二人を助けるかのように、遠くでフクロウかミミズクの、ホーホーという声が静寂を破る。

いや、一層静けさを浮きだたせてしまっていたかも知れない。




「ちいせえ頃、おっかあが・・・・・・しし射ちと・・・・・・」 


許しを請うような、かぼそい声で話す少女の言葉が終わらぬうちに、老婆が吐き捨てるように言った。

「あの恥知らずが・・・。勝手にしろ。いずれ種もらわにゃならんのだし」




老婆は、また、ツルハシのような形をした刃物を研ぎ始めた。





      つづく