老婆が、夜具を用意し始めた。
この山奥の庵には、畳の間はひとつしかない。
老婆の手作りの山葡萄酒のせいだけでなく、全身がほてり、快い疲れが襲ってきている。
少女の顔にも、化粧ではない薄紅色がさしている。
「兄ちゃんは、こっちで寝ろ。香里、おめとおらはこっちだ」
老婆は顎をしゃけりあげ、板の間を指した。
「いや、おばあちゃん。僕がこっちで寝ます。屋根があるところで、寝させてもらえるだけで十分ですから」
私は、本音と裏腹に、善人を装った。もう一人の私は、老婆の寝込んだ後、ひとつ布団の中で、睦みあう姿を思い描いているにもかかわらず・・・・・・。
しかし、老婆は、そんな私の夢想すら知っているかのように、きっぱりと言った。
「うんにゃ、お客様に土間さ寝でもらうわげにゃ、いがね。兄ちゃんは、こっちさ寝でくろ」
毛皮をパッチワークしたような、ペルシャ絨毯に似た風変わりな敷き布団の上に、すすけた銀色の掛け布団が被さっている。
私は、それ以上抗わなかった。
快い疲れが、全身を覆い始めていたからである。