モウセンゴケ---サギーの末裔 第8話 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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老婆が、夜具を用意し始めた。
この山奥の庵には、畳の間はひとつしかない。

老婆の手作りの山葡萄酒のせいだけでなく、全身がほてり、快い疲れが襲ってきている。
少女の顔にも、化粧ではない薄紅色がさしている。

「兄ちゃんは、こっちで寝ろ。香里、おめとおらはこっちだ」


老婆は顎をしゃけりあげ、板の間を指した。

「いや、おばあちゃん。僕がこっちで寝ます。屋根があるところで、寝させてもらえるだけで十分ですから」 

私は、本音と裏腹に、善人を装った。もう一人の私は、老婆の寝込んだ後、ひとつ布団の中で、睦みあう姿を思い描いているにもかかわらず・・・・・・。


しかし、老婆は、そんな私の夢想すら知っているかのように、きっぱりと言った。

「うんにゃ、お客様に土間さ寝でもらうわげにゃ、いがね。兄ちゃんは、こっちさ寝でくろ」


毛皮をパッチワークしたような、ペルシャ絨毯に似た風変わりな敷き布団の上に、すすけた銀色の掛け布団が被さっている。


私は、それ以上抗わなかった。


快い疲れが、全身を覆い始めていたからである。