「ばあちゃん、おらがタラッペ採ろうとしてケガしたとこを、この兄ちゃんが助けでくれたんだ。オラ今は何ともねえけど、兄ちゃんが、ここまで肩かしてくれたんだ」
「おめは、どごらへんケガしたんだ」
「ここだげど、もう何ともねえべ」
少女はそう言うやいなや、また、スルリとズボンを下げた。
私は、一瞬その肢体に目をやったが、すぐに老女の後ろの空間に目を移した。また、胸が早鐘を打ち始めたが、ゆっくりと息をし、平静を装う。
「おめえ、一人で血止めしたのが?」
「ああ、だども、この兄ちゃんが、谷さ落っこちるすんでのところで、引っ張りあげでくれだんだ」
「ほんじゃ、血止めすっとき、この兄ちゃんも一緒だったんだな」
「ああ、隣でずっと見てでくれだ」
老婆は、一瞬鋭い視線を私に投げ掛けたが、やがて、粘りつく黄色い目を私の全身に絡みつけてきた。
心の中に、ひどくひんやりとするものが突き刺さった。
この老婆は、知っているのだ。
あの時の、私の心を。
そう思うと、隠すようにしていた鼓動が、外に漏れだすばかりに鳴りだし、耳から指の先まで、一挙に熱くなりだした。