私は、悲鳴のした方角へ走り出そうとした。
が、一瞬ためらった。
そうでなくても、迷いやすい雪の道である。ガスに包まれた今、やっと見分けのつく登山道からはずれることは、あまりにも危険だ。先程から、足跡をたどって、引き返そうかと考えていたところだったからである。
左手前の斜面から、ウーンとうなるような声がし、ガサガサと草をかき分けるような音がした。
今度は、躊躇しなかった。
「おーい、大丈夫か。どっちだ?」
私は、声のした方向に向かって叫んだ。
「こっち」
女の声だ。
すぐ近く。
おそらく、10メートルと離れていまい。私の胸は、鼓動を感じられる程に、高く鳴りだした。
渓谷へ落ち込んでいくクマザサの生える斜面に、黄色い雨がっぱを着けた女がうずくまっている。
「そこを動かないで。今降りて行くから」
念のため、白樺の幹にロープをくくりつけ、ベルトに通して、下に降りて行く。
「僕につかまって」
「ううん、大丈夫だ。おら一人で登れっから」
やや訛りある、やや低い声。
女は、這うような仕草をした。
が、すぐにアッと小さく叫んで、顔をしかめた。
「無理をしないで。ほら」
右手はしっかりとロープをつかみながら、遠慮がちに、左手を女の方へ伸ばした。
今度は、女も素直に助けを受け入れた。
女は、まだ十五、六の少女だった。
が、当時の私にとっては、同年の異性以外の何ものでもなかった。
言葉使いに反して、大きな目をしたエキゾチックな顔だち、長い髪を見たとたん、私は、救出者以上の何かを感じ始めていた。
「ああ、いでえ(痛い)」
女は、しばらく膝頭をさすっていた。
が、
なんと、
急にズボンを下げたのである。
つづく
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注意
これは、架空の小説ですから、『私』とは、しま爺のことではありません。
また、次回から、かなりきわどい表現が出てくる可能性があります。
妖しい表現が嫌いな方は、次回はスルーした方がいいでしょう。
また、想像力がありすぎる方も、やや危険かもしれません。