[連載]モウセンゴケ---サギーの末裔  第1話 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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乳頭山の別名を持つ安達太良山(あだたらやま)が、朝日を浴びて黄金色に染まっていく。

さっきまでさえずりあっていた鳥たちは、里へでも降りて行ってしまったのだろうか。時折、鳴き慣れぬウグイスの声が、思い出したように聞こえてくるだけである。
フキが葉を広げ、裸のダケカンバは、黄緑の衣をまといはじめた。

奥州安達ヶ原にも、やっと本格的な春が訪れたのだった。



森の水を集め、チロチロと音をたててミズゴケの下をはう流れの所々に、モウセンゴケが赤い掌を広げている。

その香りに誘われてか、一匹のハエがしゃもじ形の、ぬめりある赤い掌の中にフラリ飛び込む。その全身を、ゆっくりと、しかし着実に、幾十もの粘りある手が覆っていく。

ところが、どういうわけだろうか。ハエは、羽をバタつかせることもなく、まるで酔ってでもいるかのように、時々身をくねらせているだけである。



幾日かたつと、ハエの体は無機物に分解、モウセンゴケの養分となり、残るのは、むなしく日の光をはじく羽ばかりである。






            つづく