
今と昔じゃ、全く違うコースになりますなあ。
若い時なら、かなり見栄はって、普段行ったこともないようなレストランで、勘定にハラハラしながら、マコンかボジョレー・ヴィラージあたりを、慣れたような顔して、昨日読んだばかりの本を思い出しながら、“セ・ボン、ビアン”なんぞと、コルクに鼻をつけながら、内心、なんだこの腐ったような臭いは、と思いつつも、それとない、しかし、全く的ハズレの蘊蓄なんぞを披露するわけだわ。
若いうちは、それがかっこいいことだと、勘違いしちまうんですな。
女の子の方も、賢い人ならそんなことはないんだが、それが当然と思ったりしてしまうんだの。
表面的なものと、内面的なものの区別がつかんのじゃよ。
シンガポールのラッフルズホテルや、バンコクのオリエンタルホテルのスウィートとかで、つばくろコースでも頼むならともかく、いや、いや、これは若造の給料じゃ、1年ただ働きしても無理じゃな。
まあ、そんな場所に行けるならともかく、ミシュランのミも知らずに、やたら★付きレストランなぞ行っても、意味のないことよ。
だいたい、若造にグラン・クリュとプルミエ・クリュの差なんぞ、わかるはずがない。
でな、年をとると、値段と味は必ずしも一致しないし、お互いのためにも、決してそれがよいことではないとわかってくるわけよ。
だから、ある程度周りが見えるようになると、等身大のところが、デートコースになるんじゃわな。
一本入った路地の焼き鳥屋とか、まあ、ある程度懐の温かい人なら、それこそ暖簾をくぐって目が会っただけで、奥へ通してくれるような店だわさ。
チェーン店の飲み屋だってかまわない。
シュワーッと、まずはビールで喉を満足させてから、
久保田か八海山あたりを、チロチロとやるわけだ。
えっ?
ワシの場合かって?
そりゃ、決まってるじゃろ。
まずは、ゆかりばあさんの店で、お香をきくのが出だしよのう。
その後、散歩もかねて、おことばあさんちの裏にある鍾乳洞の羅漢様見てな。
その後は、おきよばあさんとこで、渋ーいお茶をよばれるわけだ。
ほう、そうじゃった。
この間、ともえばあさんちの隣に引っ越してきた、伝次郎さんとこのめいっ子の、何つうたかな、
そうそう、
お里ちゃんとお琴ちゃん、いや、これは羅漢様のおことばあさんとは違うぞ。
こん若い二人の、カナリア鳴くような笑い聞きに、ちょっくら、弁天様まで足を伸ばすのも、ええかも知れんの。
やっぱし、かかあのどら猫ダミ声ばっかり聞いてると、若いおなごの声聞くだけで若還るからのう。
お里ちゃんは、こけて腰痛めたようじゃが、そんなぴょこぴょこ歩く尻なんざ、まあ、色っぺえのなんの。
はっ?
それじゃ、デートじゃなくて、ストーカーだろうってか?
いや、いや、ちゃんと一緒に歩くものがおるぞ。
ほんまに、ワシを慕ってくれておる。
こんなしわくちゃ爺に、毎日チュッ、チュッしてくれてるわい、
なあ、ポチ。
★追記
不幸にも、ここに書かれているような災難にあわれたペタ知り合いが、万が一いらっしゃいましたら、ご一報下さいよ。
爺の自慢話になりますが、東南アジアで、マッサージのプロから賞賛を受けたほど、按摩は得意です。
あんこ餅でもご馳走いたたければ、いつでも伺いますぞ。
ただし、麗しい女性に限りますがの。
はあ?
ああ、そうでしたっけ?
打撲には、マッサージは逆効果でしたかの。
ほれっ、ポチ。
そろそろ、帰るぞ。
これ、これ。
お天道さまがあるうちから、
それに、天下の公道、人前で
そんなに、チュッ チュッ するでない。
さあ、今夜はカキドブ じゃ。
いや、いや、牡蠣鍋 じゃあない。
それは、平介さんとこの甥っ子の得意もんじゃよ。
あれも、結構気張ってるが、本当はナイーブつうんか、優しいええ子じゃよ。
ワシのは、牡蠣鍋じゃのうて、
柿で作ったどぶろく、カキドブや。
これ、これ。
ポチ、
まだお天道さまが高かろうに。