護魔壇の中の麻炭が崩れ、一時炎が上がる。
「許せぬ」
都瑠香は、衣を護魔壇に投げ入れた。
一瞬にして炎がたち、仏壇をメラメラと燃え上がらせる。
火を消そうとする最仁を、柔肌が羽交い締めにする。
険しゅんな山谷を駆け、傀儡(くぐつ)独自の締めつけをする女の力が、最仁のそれを上回った。
円林寺が、紅蓮(ぐれん)の炎に包まれていく。
白無垢の世界が、ゴーゴーという音とともに、橙、黄色の炎に焼かれ、灰色の奈落へと落ちていく。
その炎の中から、甲高い女の声が聞こえてくる。
「わらわは、ドルガ。わらわになびかぬ男はいない。わらわに触れとうない男はいない。わらわこそ、女の中の女」

その声も、紅蓮の炎の音にかき消され、やがて聞き取れなくなっていく。
「わらわは、ドルガ・・・。
女の中のおんな・・・」
もう、ひとたび、
そんな声がしたようだ。
高遠・円林寺、サバ祭
最後の夜の出来事である。
おわり