芝神の都瑠香 16 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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「坊主、お前はわらわの肌を見たであろう。美しいとも言ったのではなかったか」

女が続けた。


「美しき女性(にょしょう)どの、以前にも申したが、拙僧は、仏に仕える身じゃ。女犯(にょぼん)をおかすことはできぬ。そちには、よくわからぬかも知れんがの」 


「何を寝ぼけたことを言っておる。お前はわらわの裸を見たであろうに」


「よいか、娘子よ。確かに拙僧は、そなたの生まれたままの姿を見申した。じゃがな、それは、この世にある美しいものとして見たまでじゃ。そなたを女として見たわけではないのじゃよ。もし、拙僧があの時、そなたから目をそらし、そなたの柔肌を夢想したなら、これは破戒じゃ。色即是空、空即是色とは、そう言うことじゃ。」


「何をまたブツブツ言っておる。ささっ、はよ」


衣擦れの音。



「南無阿弥陀仏」


最仁の太く低い声が、お堂に響いた。


「よいか、娘子よ。そなたの見目姿(みめかたち)は、確かに美しい。じゃがな、前にも言うたが、そなたは病んでおる。その醜さはほふられ、癒されねばならぬ」


「なにっ!まだ、わらわが病持ちと言うのか」


鋭い刃物の声が、凍てつく空気を切り裂く。


「娘子よ、さような出で立ちでは、風邪をひこうぞ。はよう衣を身につけたらよかろう。。拙僧は、そなたがいかような姿になろうと、女性(にょしょう)とは見なんだ」


読経のような最仁の声は、切り裂かれた空気を、ゆっくりと紡ぎ治していく。


「坊主、何と言うた。わらわが女ではないと申したか」



都瑠香の声が、紡いだ空気を震わした。