「坊主、お前はわらわの肌を見たであろう。美しいとも言ったのではなかったか」
女が続けた。
「美しき女性(にょしょう)どの、以前にも申したが、拙僧は、仏に仕える身じゃ。女犯(にょぼん)をおかすことはできぬ。そちには、よくわからぬかも知れんがの」
「何を寝ぼけたことを言っておる。お前はわらわの裸を見たであろうに」
「よいか、娘子よ。確かに拙僧は、そなたの生まれたままの姿を見申した。じゃがな、それは、この世にある美しいものとして見たまでじゃ。そなたを女として見たわけではないのじゃよ。もし、拙僧があの時、そなたから目をそらし、そなたの柔肌を夢想したなら、これは破戒じゃ。色即是空、空即是色とは、そう言うことじゃ。」
「何をまたブツブツ言っておる。ささっ、はよ」
衣擦れの音。
「南無阿弥陀仏」
最仁の太く低い声が、お堂に響いた。
「よいか、娘子よ。そなたの見目姿(みめかたち)は、確かに美しい。じゃがな、前にも言うたが、そなたは病んでおる。その醜さはほふられ、癒されねばならぬ」
「なにっ!まだ、わらわが病持ちと言うのか」
鋭い刃物の声が、凍てつく空気を切り裂く。
「娘子よ、さような出で立ちでは、風邪をひこうぞ。はよう衣を身につけたらよかろう。。拙僧は、そなたがいかような姿になろうと、女性(にょしょう)とは見なんだ」
読経のような最仁の声は、切り裂かれた空気を、ゆっくりと紡ぎ治していく。
「坊主、何と言うた。わらわが女ではないと申したか」
都瑠香の声が、紡いだ空気を震わした。