芝神の都瑠香 15 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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女は、かんじき(雪道を歩く時に履く、大きな草鞋のようなもの)を脱ぐ間も惜しむかのように、衣に付いた雪を払いもせずに、回廊に上がり、ドサドサと何かを蹴散らすかのような足取りで進み、奥の院の扉を開けた。



最仁は、護魔を焚き低い読経をあげている。


木魚の音が止んだ。


「ほう、参ったか。美しき迷える女性(にょしょう)どの」


最仁は、女に背を向けたまま言った。

「坊主。

なぜわらわとわかった」

都瑠香が声をはりあげ、

「そうか、わらわが来ることを待っていたのか。そうじゃろ。また、わらわの肌が見とうて、待っておったのじゃろ」

と、続けた。


「ほっ、ほっ、ほっ」

最仁が軽く笑う。
「何がおかしい、坊主」

「耳が遠くなり申しても、それだけ足音をたてられたなら、拙僧でもわかり申す。それに、かような音をたてて来るのは、他におるまいて」


「何をくどくど言っておるのじゃ。さあ、遠慮はいらぬぞ。はよ、わらわを見よ。近こう寄りゃれ」


女の声が、引き締まった空気を暖める。


が、最仁はまだ背を向けたままだ。

「無理をするでない。ほら、はよう~」

女の言葉の語尾が、甘く溶けていく。