「吸うても・・・」
女は、もう一度掻き消えそうな声を発した。
最仁は、空いた左手で印をきりながら、ゆっくりと右手を柔らかく、沢水の湿りとは違う潤いと張りのある、熱く波打つ音さえ聞こえてきそうな、還俗した者は触れることは言うに及ばず、見ることも、いな、思うことさえはばかられるものにあてがう女の手から、するり自分の手を抜いた。
女の目が、一瞬固まった。
その表情には、一体何が起こったのかわからぬ、戸惑いのそれにも思える。
が、
すぐに、薄紅色の頬が真っ赤に燃えたった。
最仁は、もう背を向け杣道(そまみち)へと歩み出している。
青緑色の瞳が、めらめらと燃えだす。
「お前は、お前は・・・」
女の唇が小刻みに震え、肩が大きく上下し始めた。
「誰かぁ~、誰かぁ、助けてたも~」
女は金切り声をあげ、なんと自分の体に爪をたてた。
絹の肌に何本かの細い筋ができ、そこからじんわり血が滲み出てくる。