最仁は、そんな妖しい視線には気づかぬかのように、袖に付いたゴマ粒のような草の実を払い、身を翻(ひるがえ)した。
「男」
甲高い声が、沢の水を凍らせた。
「ぬしは、この体を見て何も感じぬのか。美しいとは思わぬのか」
「たいそう美しい。吉祥天様もさぞや、と思わせる美しさじゃよ」
最仁は半身にした体で答えた。
「そうであろう。ならば、
さっ、遠慮はいらぬ。近こう寄りゃれ。
わらわの肌に触りゃれ」
沢を凍らせた女の目に暖かいものが生まれ、鼻が少しばかり上の方を向いた。
「見目形(みめかたち)は、確かに美しい。
じゃがな、娘よ。拙僧が見るのは、
もっぱら中味じゃ。
そなたがかように見目形が美しいのは、前世の行いがよかったからか、まさに天の恵みとかであろう。その仏の心、天からのありがたい授かり物、ゆめゆめ悪の道、他人をたぶらかしたり、愚弄するために用いてはならぬ・・・・・・。
見目形は、美しい。
しかし、そなたは病んでおる。そういう意味では醜いと言えなくもない」
沢の水をぬるませた空気に、黄色い靄がかかった。
「わらわが病持ちと言うのか。醜いと申すのか・・・・・・」
空気の色が濃さを増し、急激に赤みを帯びていく。
「・・・・・ううっ、
醜いと申すのか。この体のどこが醜いのか。この肌、この胸、この脚のどこが病んでいると言うのじゃ」
炭火から取り出されたばかりの火箸ような思いを引き連れた言葉が、
既に背を向けた最仁を突き刺す。