と、
大きな音とともに厨房のドアが開けられ、
女朝潮龍が、
失礼、
西洋でもなかなかお目にかかれぬような、
たいへん
栄養状態の良い、
どう表現すべきか言葉を失ってしまいそうな、
すばやらしく体躯のいい
ご婦人が
ミシミシと床を揺らしながら現れた。
「マイ、何やってんの。お客さんの邪魔しちゃ、いけないでしょ」
低く太い声が、
天井でカタカタとのんびり回っている大型扇風機のプロペラの音を消し、
私の心を凍らせた。
アルトの声が続けた。
「お客さん、すいませんね」
冬瓜の声の主は、大きな肩を心もちすぼめ、ちょこんと頭をさげた。
「どうも、うちの子ったら、日本人と見ると甘えちゃうみたいで、・・・・・・」
女朝潮龍の歯が覗き、ヨウ素不足からくると思われるような太い喉が、小刻みに震えた。
「・・・・・・・で、うちの子、何か変なこと言いませんでしたぁ?」
私は薄笑いを浮かべるしかない。
「ませた子でしてねえ。推理小説っていうんですか。ほら、隣のソイにある古本屋さんに行っちゃあ、たくさん買い込んできましてねぇ・・・・・・」
「・・・・・・、あらっ、わたしも余計なお話しして、邪魔しちゃいましたね。ごめんあそばせ」
パンプキン婦人はバスローブのようなサテンの衣(ころも)をなびかせ、くるり体の向きを変え、来たときに比べると、軽い足取りで厨房に戻って行く。
その厨房の入り口には、ガンジーを思いおこさせるほど皮と骨ばかりが目立つ、小柄で髪の薄くなった男が、じっと成り行きを眺めている。
その細い影の後ろから、例の少女が顔だけ出して、ゆっくりと片目を閉じた。
クルンテープ、天使の住む都。
確かに、ここには、
シベール(小悪魔)にも似た、可愛い天使が住んでいた。
わずかビール一杯で、ひとときの甘い夢を見させてくれたのだから・・・・・・。
おわり
★Hなことを想像していた方には、?の幕切れ?
いやいや、私は根が真面目(笑)で、女の子アレルギー?!のため、艶っぽいのがなかなか書けなくて・・・・・・。
次回は、またガラリ内容変えて、いささか激しいものの予定。
では、お休みなさい。(いや、夜はこれからですかね)