それが声の主だった。どこか、子役時代のテータム・オニールに似ている。
が、パッチリした目の奥の色が、日本人であることを主張していた。

「おじさん、日本人でしょ」
「うん、そうだよ」
「こちらへどうぞ」
少女は、常連客を迎えるチーママのごとく、自然に私の手をとって窓際の席へと導いた。
「ほら、ここからなら、サクラがとってもよく見えるのよ」
少女は、私の視線を外へと促す。
確かに、葉一枚なく、ぎっしりとピンクの花をつけた木がある。
が、その花は一つがテニスボールくらいあるものだ。枯れ枝に、芙蓉の花をちりばめた感じである。
もちろんサクラではない。しかし、遠目に見れば、満開のサクラにも見えなくもない。
「おじさん、何にする?そうそう、まずはビールよね。ハイネケンでいいでしょ。それと、ミューニッヒ・ソーセージね」
少女は、初めての客である私におくすることなく、よどみがない。