タイの人たちは、首都バンコクのことを、そう呼ぶ。

世界で、最も長い正式名称を持つこの街の中心は、チャオプラヤ川東岸にある王宮だ。ここから全国の主要都市へと、幹線道路が放射状に延びている。
王宮から東へ5kmほど行くと、スクンビットという、日本人駐在員の多くが住んでいる通りにでる。大通りから枝分かれした路地をソイというのだが、スクンビット通りには、王宮から向かって左側は奇数番号、右側は偶数番号のソイ番号がついているから、初めてこの通りを訪れた人でも、比較的容易に地理感をつかむことができる。
ソイ21には、地元シンハー・ビールの直営店であり、クルンテープを代表するドイツ料理屋が、大きな看板をだし、このソイのランドマークとなっている。
そこから六つほど先のソイにも、こげ茶色の丸太で造られたログハウス風ドイツ料理屋があった。
南国特有の鮮やかなトロピカルオレンジの建物が並ぶ通りの中で、その建物は地味を通り越して、ひどく陰気な感じを受けた。
「いらっしゃいませ」
低いカウベルの音を鳴らしながらドアを開けると、明瞭な日本語が飛び込んできた。