クルンテープ(天使の住む都) 3 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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いささか危ない足取りで、少女が皿を運んでくる。



無事テーブルに皿とビールを置き終わると、フーッと耳にまで届く息を吐き、そのまま私と反対側のソファーに腰をおろした。


「おじさん、一人なの?寂しくない?」

「えっ!?」 


大人びた口振りに、私はあやうくビールを吐き出しそうになった。


いくらなんでも、小学生相手に変なことを考える年じゃないぜ、と思いつつも、純な中にある色気に近い何かを感じそうになる自分を叱咤した。


「結婚してるの?」

「なんだ、そういうことか」

「えっ?そういうことかって、どういう意味?」

それには答えず、
「ああ、結婚しているよ」

と言い、一気にハイネケンを飲み干した。

「あら、ビンじゃなくて大ジョッキの方がよかったわね」

少女が、小首を傾げながら私を覗きこむ。

「いや、昼間からあまり飲んじゃうと頭が痛くなるから、ちょうどこれくらいでいいんだよ」

「そう、よかった」


少女は、またつぶらな瞳から私へと透明な、しかし、ひどく鋭く感じられる光を放射してくる。


「さてと、じゃあ、メインを何か頼もうかな」

私は、鋭角な中にあるやや黄色味がかった視線から逃れるために、それほどにはすいていない腹に、何かを押し込まねばならぬような気分になっていた。

とりあえずステーキをオーダーする。

と、

少女は、

「はあい、ミディアムレアーね」

と、やっと子どもに戻った声で答え、厨房に入っていった。


変わった子だなあ。

私は、何かから解放されたような面持ちの中で、もう一度『サクラ』の花咲く通りへと目をやった。