無事テーブルに皿とビールを置き終わると、フーッと耳にまで届く息を吐き、そのまま私と反対側のソファーに腰をおろした。
「おじさん、一人なの?寂しくない?」
「えっ!?」
大人びた口振りに、私はあやうくビールを吐き出しそうになった。
いくらなんでも、小学生相手に変なことを考える年じゃないぜ、と思いつつも、純な中にある色気に近い何かを感じそうになる自分を叱咤した。
「結婚してるの?」
「なんだ、そういうことか」
「えっ?そういうことかって、どういう意味?」
それには答えず、
「ああ、結婚しているよ」
と言い、一気にハイネケンを飲み干した。
「あら、ビンじゃなくて大ジョッキの方がよかったわね」
少女が、小首を傾げながら私を覗きこむ。
「いや、昼間からあまり飲んじゃうと頭が痛くなるから、ちょうどこれくらいでいいんだよ」
「そう、よかった」
少女は、またつぶらな瞳から私へと透明な、しかし、ひどく鋭く感じられる光を放射してくる。
「さてと、じゃあ、メインを何か頼もうかな」
私は、鋭角な中にあるやや黄色味がかった視線から逃れるために、それほどにはすいていない腹に、何かを押し込まねばならぬような気分になっていた。
とりあえずステーキをオーダーする。
と、
少女は、
「はあい、ミディアムレアーね」
と、やっと子どもに戻った声で答え、厨房に入っていった。
変わった子だなあ。
私は、何かから解放されたような面持ちの中で、もう一度『サクラ』の花咲く通りへと目をやった。
