と、その時、父を連れた王がやって来た。
「ああ、イッシャ・ナミ。神に祝福された子よ。なぜにお前は掟を破ったのだ」
王は怒っはいなかった。むしろ、悲しみと慈愛に満ちた目で、罪深き少女に優しく言葉を投げた。
「王よ。なぜ私たちは、あのように美しいものを見てはいけないのですか。なぜに、こねようにさわやかなる食べ物を食べてはいけないのですか」
「ああ、罪深き娘よ。汝はまだわからぬのか。このドクロの実を食べることがいけないのではない。昼のジャガー神を見ることがいけないのではない。掟を破ったこと、いや、それを破ろうとした心が罪深いのだ。汝は今、『美しい』と言い、『さわやかだ』と言った。裏を返せば、汝は美しくないもの、つまり『醜い』という心を持ち、さわやかでない、つまり『不快』という心を持ったことになる。汝も、また汝の子々孫々もこの心を持ち、お互いに憎しみあい、恨み、嫉み、永遠に殺しあうことになるであろう。ああ、神に選ばれし娘よ。この地を去るがよい。汝は汝らの子らに汝の犯した罪を伝え、常に悔い改めなければならない。そして、われらオルメカもまた、この地をおわれるであろう。行け、罪を犯したる迷える娘子よ」
イッシャ・ナミの目からきらりと光る水が出て、頬に伝わっていく。イッシャ・ナミは、それが『涙』というものであることをまだ知らずに、呆然とドクロの木の前に立ちつくしていた。

おわり