その時、イッシャ・ナミは思った。「この木の実は、本当はすごくおいしいのではないだろうか。あまりにおいしいから『食べてはいけない』ことになっているんではないだろうか。ひょっとしたら、王だけは私たちの知らぬ間にこの実を食べ、一人ほくそ笑んでいるのではないだろうか」
イッシャ・ナミは手を伸ばし、深紅の中身をさらけだしたドクロの実をもぎとり、しげしげと見つめた。これだけ間近で実を見るのは初めてだ。裂けた実の中には、もうすぐ川をのぼってくるキャラヌーの卵のような深紅の粒が詰まっている。指で押すと乳首のように弾力がある。
一粒だけ恐る恐る口に入れてみた。が、水とあまり変わらない。イッシャ・ナミは、一気に頬ばった。先程は感じられなかった甘酸っぱさと、カカオにはない潤いある爽快感が口の中いっぱいにひろがった。
「なんて美味いのだろう。なんてさわやかなのだろう」
イッシャ・ナミは、生まれて初めて『さわやかだ』と感じた。

