禁断の実 6 | しま爺の平成夜話+野草生活日記

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イッシャ・ナミは、時が止まったような感覚の中で、生まれて初めて『美しい』と思った。が、それも一瞬の出来事だった。閃光がはしり、光を取り戻した太陽はみるみる輝きを増していった。その光が、ピラミッドの下でたわわに実を稔らせたドクロの木に差し込んだ。
その時、イッシャ・ナミは思った。「この木の実は、本当はすごくおいしいのではないだろうか。あまりにおいしいから『食べてはいけない』ことになっているんではないだろうか。ひょっとしたら、王だけは私たちの知らぬ間にこの実を食べ、一人ほくそ笑んでいるのではないだろうか」
イッシャ・ナミは手を伸ばし、深紅の中身をさらけだしたドクロの実をもぎとり、しげしげと見つめた。これだけ間近で実を見るのは初めてだ。裂けた実の中には、もうすぐ川をのぼってくるキャラヌーの卵のような深紅の粒が詰まっている。指で押すと乳首のように弾力がある。
一粒だけ恐る恐る口に入れてみた。が、水とあまり変わらない。イッシャ・ナミは、一気に頬ばった。先程は感じられなかった甘酸っぱさと、カカオにはない潤いある爽快感が口の中いっぱいにひろがった。
「なんて美味いのだろう。なんてさわやかなのだろう」
イッシャ・ナミは、生まれて初めて『さわやかだ』と感じた。