不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その81

 本日は、使用許諾関係にあった当事者の紛争事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号28051657)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  大阪地判平12・7・18〔ボスクラブ事件〕平8(ワ)6700

甲事件原告(乙事件被告) 株式会社ケンアンドロン(代表者 N森進)(以下「原告会社」)

      乙事件被告  N森進(以下「被告」ともいう)
甲事件被告(乙事件原告) アルプス・カワムラ株式会社(代表者 K村H延)(以下「被告会社」)

 

■事案の概要等 

 本件は、「BOSS」及び「BOSSCLUB」の標章に関し、甲事件原告が、甲事件被告アルプス・カワムラに対し、同社の債務不履行を理由として同被告との間の商標使用許諾契約を解除したとして、右解除時までの商標使用料の支払と、不正競争防止法に基づいて商標の使用差止め、右解除後の商標使用料相当額の損害賠償等を求める事案(甲事件)、及び、

甲事件被告会社アルプス・カワムラが、原告会社及びその代表者被告N森に対し、原告会社は、原告会社と被告アルプス・カワムラとの間の商標使用許諾契約の基礎となっていた商標権の専用使用権を他社に譲渡し、また、商標権者であった被告N森が当該商標権を同じく他社に譲渡したことにより、商標使用許諾契約が履行不能となったため、右契約を解除したとして、原告会社に対し債務不履行に基づく損害賠償を、被告N森に対し不法行為に基づく損害賠償を請求した事案(乙事件)です。

 

■当裁判所の判断

Ⅰー1.認定事実等

(本ブログ筆者:判決文より形式的な修正追加あり。本件に事実認定等は、海外有名ブランドに似ているが、特許庁では非類似とした登録商標をもって、商品化事業を行う場合のリスク等が想像できるかもしれませんので、少々長いのですが見ていきます。


1.本件商標権及び本件専用使用権
(1)M脇は(1)号標章を商標登録出願をし平成元年1月23日登録(本件商標権)。紳士服で著名なブランドであるBOSS商標の商標権者であるフーゴ・ボス社は、本件商標権の登録に対して、商標法4条1項11号、15号に基づき、登録異議の申立てをしたが「(1)号標章とBOSS商標とは外観上明瞭に区別しうる差異があり…(1)号標章は「ボスクラブ」と一連に称呼される」などの点から、両者は非類似として申立は理由がない旨決定された。
(2)原告は、平成6年4月6日、M脇との間で、本件商標権について…本件専用使用契約締結し同年8月8日設定登録。
(3)原告会社は、平成6年4月28日付繊研新聞に、(2)号標章を大きく横書きにし、専用使用権者が同社であることを表示した広告を掲載し、同じく、同年五月二七日付繊研新聞に、(2)号標章を大きく横書きし、ライセンス契約企業名として四社の社名を、使用許諾権者が原告であることをそれぞれ表示した広告を掲載した。
 そうしたところ、同年五月三〇日、フーゴ・ボス社は、本件商標権は(1)号標章の外観で商標登録されているにもかかわらず、「BOSS CLUB」と間を空けた(2)号標章の態様で使用するのは登録商標の不正使用であるとして、商標法53条に基づく取消審判を請求し、このことは、同年6月1日付日本繊維新聞などで報道された。
(4)原告代表者は、同年6月16日に入院し、本件商標権のライセンス業務を十分に遂行することができなくなった。同年8月、原告代表者は、かつて原告の従業員であり、当時はファッション商品全般のマーケティング業務を行っていたHが病院に見舞いに訪れた際に、本件商標権のライセンシーの開発、使用促進及び使用状況の管理業務の委託を打診し、Hは内諾。
(五)原告会社とHは本件商標の再使用許諾を含む商標管理委託契約を締結。Hは、本件商標権のライセンス業務に着手したが、個人名義では信用が十分ではなかったので、かつて自らが設立し、当時は知人Sが代表取締役を勤めていたホリサンを本件商標権のライセンス業務の事務局としたが、本件ライセンス業務自体は、実質的にはHが取り仕切って行っていた。また、Hがライセンスの管理業務の委託を受けたのは、Hが自ら開発したライセンシーに関してであり、被告N森が既に開発していたライセンシーである北原株式会社及び鐘忠株式会社は、原告がその管理を行うこととされていた。 


2.原告と被告アルプス・カワムラとの間の本件使用許諾契約の締結
 堀内は、本件商標を使用する企業の開発を進め…服飾品を取り扱うライセンシーとして、被告アルプス・カワムラとの交渉を開始。同社でライセンス業務を担当していた専務取締役Oは、Hからの提案を受け、「当時、既にある程度名の通った企業数社がライセンシーとして契約していたこと、「ボスクラブ」との称呼が量販店向けに適当なブランドであると考え」…交渉開始。HとOは…具体的な契約条件を詰め、平成7年3月7日付で、本件商標の専用使用権者を原告、使用許諾管理権者をホリサン、通常使用権者を被告アルプス・カワムラとする、概要、次の内容の契約を、右三者間で締結した。
期間    契約日から平成一〇年一〇月末日まで
許諾商品  帽子、ハンカチ、スカーフ、マフラー、ネクタイ
使用料   頭金四〇〇万円
継続使用料 許諾商品の希望小売価格の四パーセント
 本件使用許諾契約には、別紙契約条項目録記載の条項を含む約定が定められていた。
 なお、右契約締結にあたって、堀内から被告アルプス・カワムラに対し、本件商標権の商標登録原簿、商標公報及びフーゴ・ボス社が申し立てた登録異議申立に対する決定謄本などが示されることはなかった。


3 本件使用許諾契約後の経緯
A.第一回ライセンシーミーティングの開催
(1)Hは、ある程度の数の会社と使用許諾契約を締結するに至った…ころ、当時のライセンシーを集めて…方針を決定し、関係者間の情報交換、顔合わせという意味合いを含めた会議を開催し、各ライセンシーに対し、第一回ライセンシーミーティングを同月二五日に開催する旨の通知をした。Hは、ライセンシーの一社OZの協力を得て、ライセンシーミーティングの資料として、M脇が以前使用していた名刺、下げ札等の資料から、下げ札、織ネーム等に使用する(2)号標章のロゴマークを印刷したもの(清刷)等を準備したが、被告N森には、会議開催の報告をしたものの、具体的内容、資料等を事前に渡していなかった。
(2)…第一回ライセンシーミーティングが開催され、ライセンサー側としてH、ホリサン代表者Sが、ライセンシー側として被告アルプス・カワムラほか数社の関係者が出席。本件商標権の展開に当たっての基本的コンセプトの説明、下げ札、織ネームのデザイン等のロゴ表示等、ホリサンが準備した資料の配付があり、各ライセンシーは、「BOSS」と「CLUB」の間を半文字分空けた(2)号標章を統一して使用していくことが決定し、下げ札、織ネームのデザイン、大きさ、色彩などを示した資料は配付されたものの、各ライセンシーとの契約に定められている事前承認に関する書類、証紙及びその申込みに関する書類、商品生産及び販売計画書、各種購入申込書、生産商品依頼書の書式等は一切用意されておらず、下げ札、織ネーム等を購入する業者の指定もなかった。

 

B,各ライセンシーの商品展開とヒューゴ・ボス社の警告
(1)その後、被告アルプス・カワムラは…ネクタイについて商談を進め、西友との間で…契約交渉を開始。被告アルプス・カワムラで…商品製作及び製作段階での承認(アプルーバル)業務等を担当し、…ホリサンのHに電話をし、西友との商談の状況を報告。販売価格、柄構成、販売時期などを説明してホリサンの意見を求めたが、Hからは特段の指示はなかった。また…契約条項に定められている義務の履行方法について確認をしたのに対し、Hは…織ネーム、下げ札の指定業者はなく、被告アルプス・カワムラが使っている業者で作り、製作、管理して欲しい、証紙は作っていないので必要がないとの回答をした。被告アルプス・カワムラは、第一回ライセンシーミーティングにおいて指定された(2)号標章を用いて、織ネーム、下げ札を製作し…織ネーム、下げ札のカラーコピーと共に、西友で決まった商品のネクタイ生地の見本(スワッチ)を郵送。その後、ホリサンのHに電話をして、送付した資料と今後送付する必要性のある資料について確認。Hから、織ネームと下げ札はこれでよい、生地についても問題はない、商品ができ上がったら何本か送って欲しい、その他の提出資料は、今は準備ができていないので、とりあえずこれでよいとの回答を受けた。

(2)Hが開発したライセンシーの一社であるトミヤアパレルも、ボスクラブ標章を使用したカジュアルシャツ、ニットウェアの製造、販売に着手することを決め、平成七年六月二二日付日本経済新聞及び繊研新聞に、同社が「ボスクラブ」の標章を使用した商品を展開していくことが記事として掲載。ヒューゴ・ボス社より、トミヤアパレルに対し、「ボスクラブ」の商標は、フーゴ・ボス社が商標権を有するBOSS商標と誤認、混同のおそれがあるとの警告。トホリサンのHにいかなる対応を取るべきか相談するとともに、送付された内容証明郵便による警告書をホリサンにファックスで送信した。Hは、同日、トミヤアパレルから送付された右警告書を被告N森にファックスで送信、今後の対応について指示を仰いだ。被告N森は、原告の顧問弁護士、トミヤアパレルの顧問弁護士らと協議の上、フーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社に使用態様を理由とした攻撃の糸口を与えないために、今後は(2)号標章を使用せず、(3)号標章を使用していくこと、ヒューゴ・ボス社に対して、法的措置を執り対抗していくことを決定した。また、被告N森は、Hを大阪に呼び、今後は各ライセンシーに対して右方針を徹底すること、本件商標権のライセンス関係者全員を集めて、これを周知するための打合せを大阪で開くように手配することを指示をするとともに、今後各ライセンシーに対して提示するロゴマークデザインの案を作成してHに提示。Hは、被告西森から提示されたロゴマークデザインの案に基づいて、新たに(3)号標章の清刷を作成し直すことなどとした。
(3)Hは、既にヒューゴ・ボス社から警告を受けているトミヤアパレルと、(2)号標章についてのロゴマークデザイン等を作成するについて協力を得ていたオズマに対しては、Hが面談をした上で、(2)号標章の使用禁止と(3)号標章の使用徹底の方針を遵守するように依頼した。また、Hは、原告会社に対し、ライセンス業務の経過報告をしたが、その中で、新たなロゴマークデザインである(3)号標章の清刷の完成は八月七日ころになること、完成後に各ライセンシーに対し清刷を配布すること、九月上旬ころ第二回ライセンシーミーティングを開催する予定であることを報告した。同年8月7日ころ、(3)号標章の清刷が完成したことから、堀内は、被告N森に清刷を送付した。

 しかし、Hは、既に商品を製造している被告アルプス・カワムラを含めた他のライセンシーに対しては…(2)号標章の清刷を配布し、その統一使用を決定、指示していたことから、あまりに短期間のあいだにその方針を変更してしまうと、ライセンシーに対する信用を失うと考え、(3)号標章の清刷を送付せず、各ライセンシーに対する(2)号標章の使用禁止と(3)号標章の使用の指示については、第二回ライセンシーミーティングにおいて徹底することにした。


(4)Hは、第二回ライセンシーミーティングを開催することを決定し…開催を知らせる文書をファックスで送信した。
(5)被告アルプス・カワムラは、(2)号標章を使用した下げ札、織ネームを付したネクタイを二五六一本製造し、平成七年八月九日から同年九月初旬ころまでに、合計七六六本を西友に納品し、西友は同社店舗で右ネクタイの販売を開始していた。…日本経済新聞の朝刊に、西友が販売するボスクラブ標章を使用したネクタイについて、ヒューゴ・ボス社が警告行為をする旨の記事が掲載。被告アルプス・カワムラ及び西友に対し、ヒューゴ・ボス社から、西友が販売する右ネクタイに使用されている標章は、フーゴ・ボス社が有する商標権を侵害する旨の警告文書が送付された。被告アルプス・カワムラは、ヒューゴ・ボス社の右新聞記事及び警告文書の送付について、ホリサンに報告し、取るべき対応について協議を行った。また、Hは、被告N森と対応について協議するとともに、被告アルプス・カワムラから送付されていた下げ札、織ネームのコピーを原告にファックスで送信した。被告アルプス・カワムラは…ホリサンに対し、西友で販売されていたネクタイの現物を送付した。さらに日経産業新聞、同日付繊研新聞に、(2)号標章はフーゴ・ボス社の有するBOSS商標の商標権とは無関係であり、右商標権を侵害する旨の広告が掲載された。被告アルプス・カワムラは、ヒューゴ・ボス社の警告行為により、その後、西友から右商品の取引停止の通知を受け、納品済みのネクタイ七六六本のうち、未売却分四八六本の返品を受けた。
(6)原告会社は、従前から準備していたとおり、フーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社を相手方として、商標権に基づく差止請求権不存在確認並びに損害賠償請求訴訟を提起。
(7)被告アルプス・カワムラは、ヒューゴ・ボス社からの警告書に対し、反論書を作成して送付することをホリサンのHに報告し、被告アルプス・カワムラ代表者が原文を作成した上、加筆訂正をした原案をホリサンにファックスにより送信。Hは原告会社にファックスで送信したが、特に被告アルプス・カワムラとH、被告N森の間でやり取りがされることはなかった。被告アルプス・カワムラは、右原案を内容証明郵便の形に清書し、同日、ヒューゴ・ボス社に対して送付。また、被告アルプス・カワムラは、右反論書を、後日、ホリサンに送付。

 

C.第二回ライセンシーミーティングの開催
(1)平成7年9月22日、第二回ライセンシーミーティングが開催された。この会議には、ライセンサー側として原告代表者である被告N森、H、ホリサン代表者Sが出席し、ライセンシー側として、被告アルプス・カワムラ、トミヤアパレル、オズマ、鐘忠株式会社のほか、合計九社の関係者が参加。ヒューゴ・ボス社からの警告行為、新聞報道に対する対応策等が協議され、各ライセンシーに対し、(3)号標章の清刷が配付された。被告西森からは、(2)号標章は従前から使用しているものであって、先使用権があるので問題はないと考えるが、トラブルを避けるために、今後は(3)号標章を使用していく旨の説明があった。その他…問題はライセンサー側と各ライセンシーが個別に話合いをすることになった。
(2)ヒューゴ・ボス社からの警告書の送付、新聞記事の掲載、広告の掲載等のボスクラブ標章の使用に対する攻撃に対抗して、ホリサンは、各ライセンシーと協議して、(2)号標章を含めたボスクラブ標章の正当性を訴える共同記者会見を開催。被告アルプス・カワムラは、これに全面的に協力。平成7年10月6日、新聞社等に案内状を送付した。また、右共同記者会見の後に、(2)号標章を含めたボスクラブ標章の正当性をアピールする新聞広告を掲載。
(3)ホリサン及び各ライセンシーは東京都内で共同記者会見を開催し各紙に(2)号標章の正当な使用権を有することを訴える広告を、それぞれ掲載した。
(4)被告アルプス・カワムラは、西友から返品され、あるいは納品することができなかったネクタイ合計二二八一本の処理について、原告及びホリサンから何らの指示もなかったこと、原告は、フーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社に対し、(2)号標章を含めた本件商標について、差止請求権不存在確認訴訟を提起していたこと、第二回ライセンシーミーティングにおいて、被告N森が(2)号標章については先使用権がある旨説明していたこと、その後に開催された共同記者会見、日本経済新聞に掲載した広告においても(2)号標章使用の正当性を訴えていたことなどから、既に製造している商品については、(2)号標章を付して販売することも問題がないと考え、右ネクタイを、株式会社ダイクマ、株式会社キンカ堂及び株式会社扇屋に対して値下げをして販売した。

 

4 契約解除に至る経緯
(1)共同記者会見後の各ライセンシーの動き
 「共同記者会見の後、大手量販店が問題の生じる可能性のあるブランドの取扱いに慎重な姿勢を見せていたことから、各ライセンシーは、本件商標を使用した商品を積極的に展開するような状況ではなくなっていた。その中で、被告アルプス・カワムラは、第二回ライセンシーミーティングの趣旨に従って、(3)号標章を使用した平成八年春夏物の商談を進めていた。ホリサンから各ライセンシーに対し、平成八年度の春夏物の取引状況の報告要請があったため、Oは、その時点で決まっていた得意先、店舗数、本数、金額を記入の上、使用計画書をホリサンにファックスで送付した。また、Oは、右送付の後、ホリサンのHに電話をし、他に送るものはないかとの確認をしたところ、Hは、ネクタイ、帽子の現物ができ上がったら、サンプルを何点か送って欲しいが、その他は送ってもらうものはないとの回答をした。

(2)フーゴ・ボス社の(2)号標章の使用に対する警告行為は止まらず、各新聞に、BOSS商標と(2)号標章は無関係であり、(2)号標章の使用はフーゴ・ボス社の商標権を侵害する旨の広告を掲載し、また、商標取消審判請求事件の弁駁書を提出するとともに、その証拠資料として被告アルプス・カワムラが西友に販売したネクタイに使用されていたロゴを提出した。
(3)被告アルプス・カワムラは、従前のHの指示に従い、取引が決定した平成八年春夏物の代表的見本、下げ札、織りネームを四部ずつをホリサンに送付したところ、Hから電話があり、これでいいとのことであった。その後、被告アルプス・カワムラは、(3)号標章を使用した商品を、大手量販店等に販売した。

(4)平成8年2月上旬ころ、オズマが、株式会社千趣会の通信販売のカタログに、「BOSS」と「CLUB」の間を空けた(2)号標章を使用した商品、Tシャツの前面に「BOSS」、背面に「CLUB」とロゴマークを表示した商品の広告を掲載。被告N森は、商標権取消審判請求事件で不利な材料となり、本件商標の商標登録が取り消されるおそれがあるとし、被告N森は、各ライセンシーの権益を最低限守る内容でフーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社と和解契約を締結する道を探り始め…フーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社と和解の交渉に入るとともに、M脇より本件商標権を譲り受けた。
(5)原告会社及びホリサンは、本件商標権の全ライセンシーに対し、本件商標の平成八年三月末日現在の商標使用報告書及び同年4月から同年12月末までの商標使用計画書の提出を求め、合わせて織ネーム、下げ札、代表的商品の提出を求めた。被告アルプス・カワムラの商品部課長のOは、Hに電話をして、織ネーム、下げ札、代表的商品の送付の要否について確認をした。Hは、Oの右問合わせに対し、前回送っているネームとラベルであれば送付の必要はない、商品については、でき上がった段階でサンプルを何点か送って欲しいとの返答をし、Oは、これに従ったが、この段階では織ネーム、下げ札、代表的商品は送付しなかった。
 また、被告アルプス・カワムラにおいて、秋冬物の新作の展示会があり、そこで(3)号標章を使用した商品の発表もあったので、Hに来社を要請した。Hは展示会に来場し、商品見本、織ネーム、下げ札等を確認して、大変良くできていると評価したが、この際、被告アルプス・カワムラに対して、資料等の提出を要請するようなことはなかった。

(6)被告N森は、フーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社との和解交渉で、本件商標権をフーゴ・ボス社に譲渡するとともに各ライセンシーに対するライセンサーとしての地位をも承継することを内容とする提案を行ったが…拒絶された。被告N森は、ライセンサーとしての地位の承継の代わりに、フーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社が、各ライセンシーが一定期間本件商標権を継続使用することを認め、その間、フーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社は差止請求権を行使しないことを内容とする条件の提案を行い、その差止請求権不行使の期間を五年間と主張した。しかし、差止請求権の不行使の対象を(1)号標章及び(3)号標章に限定し、不行使の期間は一年程度とする内容を主張し、結局、代理人が、再度本国の本社と協議をすることとなった。
(7)原告会社及び被告N森は,本件通告書を被告アルプス・カワムラに送付し到達。本件通告書には、本件使用許諾契約における契約条項上の義務を列挙した上…報告書提出依頼に基づく報告内容を見る限り、契約上の義務の履行がないとして、その履行の催告をし、本件商標を使用した商品の写真又はカタログ、下げ札、織ネーム、包装容器等を一四日以内に提出することを求め、さらに、期限内の履行がない場合には、解除を承諾したものとみなす旨記載されていた。

(8)被告N森は、ヒューゴ・ボス社との和解交渉における条件を履行するためには、現在各ライセンシーと締結しているライセンス契約のうち、契約期間の終期を明確化し、更新を認めない内容のものとし、また、使用商標についても、(2)号標章の使用を禁じ、(1)号標章及び(3)号標章に限定する契約を再度締結する必要性があると考え、平成八年四月二二日付の本件通告書と同一の内容の書面により、各ライセンシーに対し、契約違反を理由として原告と各ライセンシー間のライセンス契約を解除する旨の通知をした。 
(9)被告アルプス・カワムラは、原告から送付された本件通告書に対し、すべてホリサンの指示に従って業務を遂行してきたにもかかわらず、一方的に原告から内容証明郵便により解除通知を受けたことについて不審に思い、原告代表者に電話をし…被告N森と被告アルプス・カワムラの専務取締役との会談を設定。本件商標を使用するビジネスを継続し、現契約を尊重すること、ヒューゴ・ボス社とは闘っていくことが被告アルプス・カワムラの基本的方針である旨の説明があった。被告N森からは、ヒューゴ・ボス社からの攻撃により各ライセンシーが本件商標を意欲的に使っておらず、平成七年においては、頭金以外は一切使用料が入らなかったこと、ヒューゴ・ボス社との和解交渉については、商標権を買い入れたいとの申入れがあり、交渉の要点は使用期間にあることなどが説明された。

 また、原告会社は、H及びホリサンに対し、Hの管理義務違反、ライセンス料六七〇万円の不払いを理由として、本件商標の管理委託契約を解除する旨の通告をし、H及びホリサンとの間で合意解除書を作成した。ホリサンは、各ライセンシーに対し、ホリサンと原告会社とのライセンス管理業務委託契約が解除され、ホリサンは旧三社間契約から離脱したこと、各ライセンシーと商標権者の再契約を含めた諸調整には責任を持って対処することを表明するとともに、原告会社の連絡先を記載した文書を送付。他方、被告アルプス・カワムラは、ホリサンに取引が決まった商品のサンプルを送付した。
(10)被告アルプス・カワムラ代表者は、原告会社に対し、被告アルプス・カワムラは諸義務を履行しているにもかかわらず、改めて下げ札、織ネーム、代表的見本等の提出を求めるならば、根拠を示して欲しいとの内容の内容証明郵便を送付した。

 

5 原告とフーゴ・ボス社の和解の成立
(1)フーゴ・ボス社は、本件商標権の取消審判請求事件において理由補充書を提出し、その中でオズマの株式会社千趣会のカタログでの使用態様を主張し、カタログの写しを証拠として提出した。
(2)被告N森は、本件商標権のライセンス業務について、現在までの状況、ホリサン(H)との契約を解除した経緯、本件通告書を送付した意図等を説明する文書を、被告アルプス・カワムラを初めとする各ライセンシーに送付した。他方、被告アルプス・カワムラは、同日、ヒューゴ・ボス社に対し、原告及び被告Nとフーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社との間の和解交渉について、本件商標権を譲渡する内容の合意をすることを牽制する趣旨の内容証明郵便を送付した。

(3)原告は、フーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社代理人と和解協議を行い、基本的条件を詰め、差止請求権を行使しない標章を(1)号標章及び(3)号標章とすること、期間は、各ライセンシーとの当初の契約期間とし、延長は認めないことなどの合意事項を定めた。フーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社代理人は、最終的にドイツ本国のフーゴ・ボス社本社の決裁を取る手続に入ることとなった。

(6)原告及び被告N森は、フーゴ・ボス社代理人との間で、本件商標権について、次のような内容の本件和解契約を締結した。
⑴原告は本件商標権の専用使用権及びその有する七つの商標登録出願により生じた権利を一〇〇〇万円でフーゴ・ボス社に譲渡する。

⑵被告N森は、本件商標権及びその有する四三の商標登録出願により生じた権利を二〇〇〇万円でフーゴ・ボス社に譲渡する。

⑶フーゴ・ボス社は、原告が本件商標権の使用許諾をしたライセンシー一五社が(1)号標章、(3)号標章を最長平成一〇年一二月末日まで使用することを認め、更にその期間経過後六〇日間を追加使用期間として認める。ただし、(2)号標章について差止請求権を行使することを妨げない。

 同日、原告から被告アルプス・カワムラに対し、和解の成立についてファックスで連絡があり、被告アルプス・カワムラ代表者が被告N森に電話をして再度本件商標権及び本件使用許諾契約の取扱いについて交渉をしたが、結局、合意には至らなかった。
(6)原告は、本件和解契約の締結に伴い、本件専用使用権をフーゴ・ボス社に譲渡し、被告N森は、本件商標権の移転登録を経由した上で、本件商標権をフーゴ・ボス社に譲渡。その結果、本件専用使用権は混同により消滅。

(4)原告は各ライセンシーと、新たなライセンス契約を締結した。この契約においては、使用期限を従前のライセンス契約の期間として、更新はしないものとされ、また、使用標章は、(1)号標章及び(3)号標章に限定された。また、原告は、各ライセンシーに対してファックスで連絡をし、進行中の和解の内容を説明した上で、契約期間を当初の契約の許諾期間内、最大で平成一〇年一二月までとし、契約更新はしないとする内容の新契約を締結するように求めた。平成八年五月二二日、被告アルプス・カワムラは、Yを再度大阪に派遣して被告N森と面談をし、フーゴ・ボス社への商標権の譲渡を見合わせるように要請し、どうしても手放すつもりならば、被告アルプス・カワムラが譲渡を受けることを伝えたが、被告N森はこれを受入れず、新契約の契約条項案が提示された。同日、原告から被告アルプス・カワムラに、新契約の商標使用料に関するファックス文書が送付された。同日、被告N森と被告アルプス・カワムラ代表者は、本件商標権及び本件使用許諾契約の取扱いについて交渉をしたが、最終的な合意には至らなかった。

 

6 その後の経過
(1)被告アルプス・カワムラは、ホリサンに対して旧三者間契約からの脱退の確認を求める内容証明郵便を、ヒューゴ・ボス社に対し、本件使用許諾契約の内容を告知する内容証明郵便をそれぞれ送付し、さらに、原告会社に対し、ホリサンの権利義務を原告が承継したことの確認を求め、新契約には同意できないことを通告するとともに、フーゴ・ボス社、ヒューゴ・ボス社との和解の折衝経緯及び合意事項の内容の開示を求める内容証明郵便を送付した。
(2)被告アルプス・カワムラは、(3)号標章を付したネクタイ、ハンカチ、帽子、マフラー等を平成八年二月ころから同年一二月ころにかけて、ジャスコ、イトーヨーカ堂等の大手量販店において継続的に販売した。
(3)被告アルプス・カワムラは内容証明郵便により本件商標の使用実績を報告し、これにより発生した使用料については、頭金四〇〇万円を控除した残額と原告会社に対して被告アルプス・カワムラが取得した原告の本件使用許諾契約違反による一億円以上の損害賠償請求権とを対当額で相殺する旨の意思表示をした。

(4)被告アルプス・カワムラは、原告に対し、内容証明郵便で、原告が本件商標権をフーゴ・ボス社に譲渡し、本件商標権の専用使用権が混同により消滅するに至ったため、本件使用許諾契約を履行不能にしたことを理由として、本件使用許諾契約を解除する旨通知し到達。

 

 

Ⅰー2.認定事実等

 裁判所は以上の認定事実等を以下のようにまとめました。

 

(1)「原告は、平成7年1月ころ、Hが被告アルプス・カワムラと本件使用許諾契約の締結交渉をする中で、被告アルプス・カワムラに対し、本件商標権の商標公報、商標登録原簿、フーゴ・ボス社の登録異議申立てに対する決定謄本等を交付しており、被告アルプス・カワムラは、本件使用許諾契約の締結に当たって、本件商標権に関してフーゴ・ボス社との間に争いがあったことを知っていたと主張し、その際に交付した資料…を提出し、証人Hの証言の中にも右主張に沿う部分がある」が、「Hが被告アルプス・カワムラとの本件使用許諾契約の契約締結交渉の過程で、被告アルプス・カワムラに対して交付した書類は、平成7年2月21日付の「ライセンス契約検討にあたって」と題する文書であり、その文中には、「添付の商標関連資料によって示された旧17類登録第2108026号商標『BOSSCLUB』」との記載があるものの、実際にこれに添付されていたのは原告の主張する本件商標権に関する資料ではなく、ライセンス契約書の原案であった」。「…右当時に実際に被告アルプス・カワムラに送付された文書と同一であるとは認められ」ず、「Hから被告アルプス・カワムラに対し、本件使用許諾契約の契約締結交渉の過程で、本件商標権の商標公報、商標登録原簿、フーゴ・ボス社の登録異議申立に対する決定謄本等が交付されていたと認めるに足りる証拠はない」。

(2)「原告は、平成7年4月25日の第一回ライセンシーミーティングの後、当日中に、ホリサン及び鐘忠株式会社から(2)号標章の資料を提示され、直ちに、Hに対し、ライセンシーに対してその使用を厳禁するように指示をした、また、Hは、各ライセンシーに対し…(2)号標章の使用禁止と(3)号標章の使用徹底を指示し、…(3)号標章の清刷を送付…、…被告アルプス・カワムラからは、西友に納品したネクタイの製造については、事前に全く相談がなかった旨主張」。しかし、「Hが各ライセンシーに対して、(2)号標章の使用を禁止し、(1)号標章及び(3)号標章の使用を指示するための具体的な準備を開始したのは、ヒューゴ・ボス社からトミヤアパレルへの警告行為に対する対応が決定され、Hが大阪においてN森から具体的な指示を受けた平成7年7月下旬ころで…Hが、各ライセンシーに対して、具体的に(2)号標章の使用禁止、(1)号標章及び(3)号標章の使用徹底を指示していたとは認められ」ず、「平成7年7月下旬の時点においては、被告アルプス・カワムラが、西友に対するネクタイについての商談をまとめ、(2)号標章を使用した商品を製造していたことが認められるから、仮に、右時点以降、堀内から被告アルプス・カワムラに対して、第一回ライセンシーミーティングにおいて指示があった(2)号標章の使用を禁止し、(1)号標章及び(3)号標章を使用するように指示があったとすれば、被告アルプス・カワムラからホリサンあるいはHに対して、いったん決定された方針と異なる指示が出されたことに対する説明の要求、既に製造した(2)号標章を使用した商品の取扱いについての問い合わせ、協議の申入れがなかったとは考えられず、かつ、そのような問い合わせ、協議の申入れが全くないままに、被告アルプス・カワムラが、(2)号標章を使用したネクタイの製造、販売を継続するという事態は想定し難い」。
 「また、Hが平成7年8月7日ころ、Hが各ライセンシーに対して(3)号標章の清刷を送付したこと」は、「その際の送り状、添付文書等は、証拠として提出されていない」。「他方、被告アルプス・カワムラが平成7年7月10日ころ、ホリサンに対して送付したとする下げ札、織ネームのカラーコピー、ネクタイ生地の見本(スワッチ)」は、「送付したことを証する書類は証拠として提出…ない」が、「証人Oの証言は具体的であり信用」でき、「被告アルプス・カワムラが西友との間で商談をまとめたネクタイは、本件使用許諾契約に基づく商品としては最初のもので」、「本件使用許諾契約における契約条項からしても、被告アルプス・カワムラが、商標管理権者であるホリサンに対して事前の相談を全く…なく、下げ札、織ネームを独自に作成した上で、商品の製造、販売に取りかかることは考えられない」。
 

 「これらの証拠状況に照らし…被告アルプス・カワムラは、Hと相談の上で西友との間で商談を進め…被告アルプス・カワムラが(2)号標章の使用禁止と(1)号標章及び(3)号標章の使用の指示を受けたのは、ヒューゴ・ボス社から西友が販売するネクタイについての警告行為が明らかになった平成7年9月12日ころであったと認めるのが相当である」。
 

Ⅱ.甲事件争点(一)(本件使用許諾契約解除の有効性)について

Ⅱー1.甲事件争点(一)(1)(被告アルプス・カワムラの債務不履行の有無)について
1.事前承認義務違反 

(1)「被告アルプス・カワムラの担当者Oは、平成7年6月から7月にかけて、西友とのネクタイの商談に関し、販売価格、柄構成、販売時期、契約条項に定められている義務の履行方法などについて、Hに相談をしつつ話を進め、Hの指示に従って、被告アルプス・カワムラが自ら織ネーム、下げ札を製作し、同年7月10日ころ、織ネーム、下げ札のカラーコピーとともに、西友で決まった商品のネクタイ生地の見本(スワッチ)を郵送した」。
(2)「ところで、本件使用許諾契約における契約条項においては、被告アルプス・カワムラは、契約上の義務として、
〔1〕許諾商品を生産しようとするときは、事前に商品品目、希望小売価格、生産数量、完成時期、主たる販売先などを記載した「商品生産及販売計画書」と代表的見本をホリサンに提出してその承諾を受けなければならない(本件使用許諾契約四条一項)
〔2〕その製造販売する許諾商品の現実見本を吊札、織ネーム、包装、容器とともに、ホリサンに提出しその承諾を得た後でなければ、許諾商品の製造及び販売を開始してはならず(五条四項)、製造した許諾商品の完成品四部を、販売を開始する前にホリサンに提出しなければならない(同条五項)
〔3〕その製造販売する許諾商品の現実見本及びホリサン指定の吊札、織ネーム、包装、容器の現物見本を、ホリサンが定める「商品生産承認依頼書」及び「吊札、織ネーム、包装、容器生産承認依頼書」とともにホリサンに提出しその承諾を得た後でなければ、指定商品及び吊札、織ネーム、包装、容器の製造を開始してはならず(同六条四項(1))商品の販売を開始する前に、当該許諾商品及びその吊札、織ネーム、包装、容器の完成品四部をホリサンに提出しなければならない(同項(2))
とされている」。
「したがって…被告アルプス・カワムラがホリサンに対して行った、西友に対して販売したネクタイにかかる事前の確認行為は、いずれも、商標管理権者であるホリサンないしHの指示に従ったものであるが、形式的には右契約各条項に違反する」。
 

2.紛争発生後の無断販売

(1)「被告アルプス・カワムラは、西友から返品され、あるいは納品することができなかった(2)号標章を使用したネクタイ合計二二八一本を、株式会社ダイクマほかに対して値下げをして販売しており、この再販売行為については、ホリサンの明確な承諾を得ていない」。
(2)「本件使用許諾契約には、五条四項において、被告アルプス・カワムラは、許諾商品の現実見本を、吊札、織ネーム、包装、容器とともに、ホリサンに提出しその承諾を得た後でなければ販売してはならないと定められており、右ネクタイ及びそれに使用された下げ札、織ネームは…Hの指示に従って製造されたものであるけれども、…平成7年9月12日以降、ヒューゴ・ボス社から右ネクタイの販売をきっかけとして大々的に警告行為がなされ、その後に開催された第二回ライセンシーミーティングにおいて、各ライセンシーは(3)号標章を統一して使用していくことが決められ」、「被告アルプス・カワムラは、既に製造した(2)号標章を使用した商品の販売…は、改めて原告ないしホリサンの承諾を受けるべきであった」。「右のような具体的事情を考慮すれば、被告アルプス・カワムラの右販売行為は、本件使用許諾契約五条四項に違反する」。


3.ヒューゴ・ボス社に対する無断回答
(1)「被告アルプス・カワムラは、ヒューゴ・ボス社からの警告書に対し、反論書を作成して送付することをホリサンのHに報告し、被告アルプス・カワムラ代表者が原文を作成した上、加筆訂正をした原案を、平成7年9月19日ころ、ホリサンにファックスで送信し、同月20日、右原案を清書したものをヒューゴ・ボス社に送付」。「右ヒューゴ・ボス社に対する反論書の送付については、被告アルプス・カワムラとH、被告N森の間で右のほかはやり取りがされることはな」く、「被告アルプス・カワムラは、原告あるいはホリサンの明確な指示に基づかずに反論書を送付した」。
(2)「本件使用許諾契約10条1項には、被告アルプス・カワムラは、許諾商品について第三者から不正競争、不正行為その他の理由によって差止め、損害賠償又はその他の請求を受けたときには、直ちにこのことを原告及びホリサンに通知し、原告、ホリサンと協議し、又はホリサンの指示に従ってこれに対する措置をとらなければならない」。「被告アルプス・カワムラは、ヒューゴ・ボス社からの警告行為に対して、反論書を送付することをホリサンに報告し、その原案をホリサンに送付した上でヒューゴ・ボス社に送付しているが、原告、ホリサンと協議した上、あるいはホリサンの指示に従って反論書をヒューゴ・ボス社に送付したとまでは認められない」。「したがって、被告アルプス・カワムラの右行為は、形式的には、本件使用許諾契約一〇条一項に違反する」。


4.報告義務違反
(1)「被告アルプス・カワムラは、原告及びホリサンの平成8年3月15日付書面による商標使用報告書及び商標使用計画書並びに織ネーム、下げ札、代表的商品の提出の要請に対し、同年4月12日に使用報告書及び使用計画書を提出したものの、前回と同じものであれば提出の必要はないとのHの指示に従って、織ネーム、下げ札、代表的見本は送付しておらず、新たに商品の納入が決まった同年4月26日の段階で、ホリサンに対し、商品見本を送付し…被告アルプス・カワムラは、同月22日付の原告の本件通告書による織ネーム、下げ札、商品見本の提出要請に対して、5月2日付内容証明郵便により、提出を求める根拠を明示するように主張し、織ネーム、下げ札、商品見本の提出を拒否」。
(2)「本件使用許諾契約においては、被告アルプス・カワムラの許諾商品の生産に先立って商品見本、織ネーム、下げ札等を提出する義務(四条一項、五条一項)、あるいは商標の使用状況の報告義務(四条二項)、自ら製造した場合の下げ札、織ネームの製造、使用、在庫数の報告義務(六条四項(3))等は定められているものの、原告あるいはホリサンの要求により、事後的に商品見本、下げ札、織ネームを提出する義務は直接には定められていない」。「もっとも、本件使用許諾契約においては、契約違反又は履行遅滞に基づく契約解除の通告において、当該通告より30日以内に相手方が契約違反又は履行遅滞を是正しないときに契約を解除することができると定められている(一二条一項)」。

 「したがって、被告アルプス・カワムラが、前記(1)の平成8年3月15日付書面による報告要請に対して商品見本及び下げ札、織ネームを提出しなかった点は、本件商標の許諾管理権者であるホリサンないし堀内の指示に従ったものであるのみならず、本件使用許諾契約のいずれの条項にも違反しないものであり、また、同年4月22日付の本件通告書による報告要請に対して商品見本及び下げ札、織ネームの提出をしなかった点についても、それ自体が直ちに契約条項に違反するものとはいえない(一二条一項の関係で、契約違反又は履行遅滞の有無とその是正の成否の問題が生じるにすぎない。)」。
(3)「被告アルプス・カワムラが平成8年4月12日に提出した同年3月末日までのボスクラブ標章の使用報告書に記載されている販売数量と、同年12月末日までの使用計画書の数値の合計は、被告アルプス・カワムラが平成8年に製造、販売した実際の数量よりも少なかった」。
 

Ⅱー2.甲事件争点(一)(2)(本件通告書の解除通知としての有効性)について

1.認定事実等

(1)「本件使用許諾契約には、契約解除に関する条項(一二条一項)が存在したことは、前記のとおりである」。

 「件使用許諾契約は、原告が本件商標権の専用使用権に基づいて被告アルプス・カワムラに対して本件商標を使用させる等の義務を負い、これに対して被告アルプス・カワムラが商標使用料の支払義務とともに各種義務を負担するものであって、いわゆる継続的契約関係に当た」り、「契約上解除に関する定めが存在する場合であっても、解除権を行使するためには、信義則上、取引関係を継続し難いような不信行為等のやむを得ない事由の存することが必要である」。
(2)「原告は,平成8年4月24日付の本件通告書により、本件使用許諾契約を解除したと主張する」が、「本件使用許諾契約の履行におけるに被告アルプス・カワムラの具体的行為を問題としたものと解することはできず、その文面からは、原告が被告アルプス・カワムラに対し、いかなる事実をもって債務不履行を主張し、その履行の催告をしているのか覚知することができ」ず、「右通告は、本件使用許諾契約一二条一項の定める契約解除の前提としての履行の催告としては、効力を持たない」。
(3)「本件通告書が前記1の各点の債務不履行についての催告書面であるとしても、以下に述べるとおり、これを契約解除の理由とすることはできない」。
⑴「事前承認義務違反及び報告義務違反について…本件使用許諾契約の契約条項の定めからすれば、被告アルプス・カワムラは、事前承認義務を厳密に履行していたとはいい難い」が、「第一回ライセンシーミーティングの際には、本件使用許諾契約に定められている事前承認義務、報告義務を履行するための書類の書式、提出方法などについては具体的には定められて」おらず、「被告アルプス・カワムラは、平成7年6月ころに西友との商談をまとめて(2)号標章を使用した商品を製造、販売するに当たって、事前に堀内に電話をし、その際に取るべき手続を確認した上で、Hの指示に従って資料の提出を行っていること」、「Hから、本件通告書が送付されるまで、何らの異議も述べられて」おらず、「右事前承認義務、報告義務の履行態様は、仮にこれが形式的に契約条項に違反し…ても、許諾管理権者たるホリサンの指示によるものであって、原告から右履行態様を非難されるいわれはない」。「また、被告アルプス・カワムラが平成8年4月12日付で提出した使用実績書と使用計画書の合計数量が、現実に販売した数量と比較して過小で」も、「平成8年内に販売するすべての取引が決定したとは考え難」く、「予測の数値となることはやむを得」ず、「本件使用許諾契約にいう報告義務に違反してい…ない」。


2.紛争発生後の無断販売について
 「被告アルプス・カワムラが、西友から返品されたネクタイについて、これを原告又はホリサンの承諾を得ることなく、再度販売したことは、前記のとおり、事前承認義務に違反するというべき」だが、「被告アルプス・カワムラが、(2)号標章を使用したネクタイを製造したのは、ホリサンの不十分な使用商標の指示、管理にあったといえ」、「これら商品はいったんはホリサンの承認の下に製造されたものであること、第二回ライセンシーミーティングにおいては、(3)号標章を使用する方針が決定されたものの、原告のフーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社に対する訴訟提起、第二回ライセンシーミーティングにおける被告N森の発言内容、その後の共同記者会見の内容、原告らが掲載した新聞広告の内容から明らかなように、本件商標に関わるライセンサー及びライセンシーの対外的態度としては、(1)号標章及び(3)号標章の正当性はもとより、(2)号標章使用の正当性をも主張するものであったこと、第二回ライセンシーミーティングにおいて、既に商品を生産したライセンシーについては、個別の話合いをして当該商品の取扱いを協議することとされたにもかかわらず、原告及びホリサンと被告アルプス・カワムラとの間で、西友に販売することができなかった(2)号標章を使用したネクタイの処分についての具体的な協議がされたとも認められないことなどからすれば、被告アルプス・カワムラによるネクタイの再販売行為を一概に非難することはできない」。


3.ヒューゴ・ボス社に対する無断回答について
 「被告アルプス・カワムラが、ヒューゴ・ボス社からの警告行為に対して、平成7年9月20日、反論書を提出した際の対応は…少なくとも事前にホリサン及び原告と協議したとはいえず、本件使用許諾契約一〇条一項に形式的には違反する行為というべき」だが、「被告アルプス・カワムラは、ホリサンに対して全く無断で反論書を提出したものではなく、少なくとも、反論書の正式文書とほぼ同一の文案を事前にHに送付し、その後、右反論書を清書し、提出している」。「ホリサン及び原告が、右反論書の原案の送付を受けた後、本訴提起に至るまで、反論書の提出それ自体、あるいはその内容について、被告アルプス・カワムラに対して異議を述べたような事実が存在したことを認め」られない。「平成7年9月13日に原告はフーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社に対して訴訟を提起していたこと、被告N森は、第二回ライセンシーミーティングにおいて、(2)号標章について、法的には問題がないが、念のため(3)号標章を使用すると説明していたことからすれば、被告アルプス・カワムラの反論書の内容がヒューゴ・ボスに対して敵対的であること…も、当時のライセンサー及びライセンシーの基本的姿勢に反する」とまでいえず、「ホリサン及び原告は、少なくとも被告アルプス・カワムラの反論書の提出行為を黙認していた」と見るのが相当で、「その内容もライセンサー及びライセンシーの基本的姿勢に反するものとまではいえない」。
(4)「原告は、本件通告書とほぼ同様の内容の通告書を、本件商標の各ライセンシーに一斉に送付していることが認められる」。「本件通告書は、オズマが「BOSS」と「CLUB」を完全に分離したロゴマークを使用した商品をカタログに掲載したことにより、本件商標の商標登録が取り消される可能性が高くなったと判断した被告N森が、フーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社と和解をするに当たって、従前のライセンシーとの契約関係をいったん清算し、新契約を締結することによって和解条件に合致したものとする意図の下に、各ライセンシーに解除通知として送付したものであると見るのが自然である」。「被告アルプス・カワムラには、一部本件使用許諾契約の契約条項に違反する行為があったものの、それらは許諾管理権者であるホリサンないしHの指示に従ったもの、あるいは、当時の原告、ホリサン、各ライセンシーの意向に沿ってなされたものであって、少なくとも、原告と被告アルプス・カワムラの信頼関係を破壊するような重大な契約違反行為とまでは評価…でき」ず、「一部契約条項違反の点を取上げて解除権を行使することは、解除権の濫用に当たる」。
 

4.小括

 「原告の本件通告書によって本件使用許諾契約が解除されたとは認められないから、原告と被告アルプス・カワムラの本件使用許諾契約は、平成八年四月二四日以降も継続していた」。

 

Ⅲ.甲事件争点(二)(不正競争防止法に基づく請求の成否)について
 「原告と被告アルプス・カワムラとの間の本件使用許諾契約は、平成8年4月24日以降も続いて」おり、「原告は、平成8年5月28日に本件商標権の専用使用権を、被告N森は本件商標権を、いずれもヒューゴ・ボス社に譲渡し」、「本件使用許諾契約の基礎となっている本件商標権の専用使用権は混同により消滅し、これは、平成8年9月24日に商標登録原簿に登録され」、「そうすると、本件商標権の専用使用権に基づく本件使用許諾契約は、右時点において原告の責に帰すべき事由により履行不能とな」り、「平成9年1月16日到達の被告アルプス・カワムラの原告に対する解除通知により、解除されたものと認められる」。

 「したがって、平成9年1月16日までは、被告アルプス・カワムラは、原告との間では、本件使用許諾契約に基づき、適法な使用権原を有し」、「原告は、被告アルプス・カワムラに対し、右時点までは、本件標章を使用した商品の製造、販売について、不正競争防止法に基づく差止請求権、損害賠償請求権を行使することはできな」い。

 「原告は、原告とフーゴ・ボス社及びヒューゴ・ボス社との本件和解契約においては、フーゴ・ボス社は(1)号標章及び(3)号標章については、一定期間は差止請求権を行使しない旨の約定があり、右期間中は原告は(1)号標章及び(3)号標章を使用許諾できた」から、「履行不能には当たらないと主張する」が、「原告とフーゴ・ボス社の間の和解の内容は、原告も認めるとおり、フーゴ・ボス社が一定期間は商標権に基づく差止請求権を行使しない旨の約定で」、「原告が右期間中にライセンス業務的な行為を行うことができるのは、右和解条項に基づく事実上の反射的効果にすぎない」。「原告は、原告の被告アルプス・カワムラに対する本件商標権の専用使用権に基づく使用許諾を内容とする本件使用許諾契約の履行義務を果たすことはできなくなったので」、「原告の主張は採用できない」。
 「被告アルプス・カワムラは、平成9年1月17日以降、本件商標を使用していないものと認められ」、「右時点以降についての、本件商標を使用した商品を製造、販売したことに対する原告の被告アルプス・カワムラに対する不正競争防止法に基づく請求は、いずれもその請求の前提を欠き、失当である」。「不正競争防止法に基づく原告の請求はいずれも理由がない」。


Ⅳ.甲事件争点(三)被告アルプス・カワムラが損害賠償責任を負うとした場合、その額について
(省略)


Ⅴ.乙事件争点(一)(原告の債務不履行責任、被告西森の共同不法行為責任の有無)について
1 原告会社の責任
 「本件使用許諾契約は、原告の責に帰すべき事由により履行不能となり、平成九年一月一四日に被告アルプス・カワムラにより解除された」。「原告は、被告アルプス・カワムラに対し、民法415条、416条に基づき、その損害を賠償する責任を負う」。
2 被告N森の責任
 「被告N森は、平成8年3月5日に商標権者から本件商標権を譲り受け…、さらに同年5月28日、原告の代表者として、本件使用許諾契約の基礎となっている本件専用使用権をフーゴ・ボス社に譲渡する…とともに、同年6月11日本件商標権を同じくフーゴ・ボス社に譲渡した…ことにより、本件専用使用権を消滅に至らしめた」。「被告N森は、原告会社の代表者として、本件使用許諾契約の内容を熟知しており、原告が本件専用使用権をフーゴ・ボス社に譲渡するとともに、被告N森が本件商標権を同じくフーゴ・ボス社に譲渡すれば、本件使用許諾契約に基づく被告アルプス・カワムラの本件通常使用権がその基礎となる本件専用使用権の消滅に伴って履行不能に至ることを熟知していた」。「したがって、被告N森は、被告アルプス・カワムラを害することを知って、故意に、被告アルプス・カワムラの原告に対する本件使用許諾契約に基づく使用権を履行不能の状態にし、もって、被告アルプス・カワムラの右債権を侵害し」、「被告アルプス・カワムラが被った損害を賠償する責任がある」。


Ⅵ.乙事件争点(二)(損害)について
(省略)


3 この点、被告アルプス・カワムラは、本件商標のような著名・周知でない商標については、継続的に使用することにより、売上が増加し、その増加率は一年につき一〇パーセントを下らないと主張するが、右被告アルプス・カワムラの主張を認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。
4 よって、原告及び被告西森は、被告アルプス・カワムラに対し、連帯して、金一九三五万三一九八円及び乙事件の訴状送達の日の翌日である平成九年五月二二日から支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払う義務がある。
八 以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がなく、被告アルプス・カワムラの請求は、主文第一項記載の限度で理由がある。

 

■BLM感想等 

 ボルト・サーフ事件において、このところ、商標・その他の表示の使用許諾を受けた者と、周知表示主体(グループ含む)との関係解消事例をみていますが、どんなに、使用許諾権者が当該表示を使用した商品の販売等をがんばって、周知性に貢献しても、それだけでは表示主体となれず、グループの中核的存在として表示主体の一員となったとしても、主従の関係がある場合にその主となる者との契約が終了し関係解消すれば、もはや赤の他人、商標権を有していても同様、ということになる、というのが共通してみられる傾向であるように思います。関係解消しても表示主体の一員から離脱しないという強固な存在というのは、どのような者か、むしろ、気になります。もう少し事例にあたり、検討してみたいと思いますと述べました。

 本件は、その一例になるかもしれません。といっても、本日の事例は、主従の「主」の方になりきれなかった例です。表示主体の中核的存在となるべく、本件の原告は、被告らを集め、原告・被告らは、当初グループを形成しましたが、最後までグループでいられませんでした。特許庁が、「BOSS」と非類似と判断し、「BOSSCLUB」を登録したことで紛争の火種をつくっているともいえなくもないですが、一応登録は維持されていたわけです。しかし、その後、ライセンサーが、海外有名ブランドの攻撃に耐えられず、同社に商標権と専用使用権を譲渡してしまったことで、ライセンスの根拠を失いました。これに対し、責任が発生したのです。一般論として、商品化事業を行う場合は、周知・著名性が定まった商標・その他の表示を欲するのは、多数の利害関係者が絡み、一般の最終消費者にもつながった大手小売業者もが関与するため、顧客吸引力がある表示というプラスの面だけでなく、周知性とその表示主体がはっきりしているものを軸とする方がリスクがないということかもしれません。

 で、海外有名ブランドに少しでも似ている商標・その他の表示を選択するのは避けた方がいい、となりますが、一方で、それでいいのか!?とも思いますね…。いずれにしても商標権が取得されたからといって、安心はできない点は、標識法の特質として留意が必要です。

 

By BLM

 

 

 

 

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