不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その89

 本日は、製造業者・販売業者の関係にあった当事者の紛争事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号25443731)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  東京地裁平23・ 7・20〔常温快冷枕 ゆーみん事件〕平21(ワ)40693

原告 株式会社健盛社
被告 株式会社コジット

 

■事案の概要等 

 本件は、「常温快冷枕 ゆーみん」「常温快冷マット ゆーみん」等の商品名の各商品について、その商品等表示(商品名及び形態)が原告の商品等表示として周知であるところ、被告はその商品等表示と類似の商品等表示を使用した「常温快冷枕 クールミン」「常温快冷マット クールミン」等という商品名の各商品を販売しており、その行為は不正競争防止法2条1項1号及び3号に該当する旨主張して、原告が、上記各商品の販売差止等を求めるとともに、原告が被告に対して販売下「常温快冷マット ゆーみん」の代金が未払いである旨主張して、売買契約に基づく代金支払を求めた事案です。

 

◆争点
(1)不正競争防止法2条1項1号該当性
ア 本件各商品の商品等表示が原告の商品等表示であるか。
イ 本件各商品の商品等表示の周知性
ウ 本件各商品の商品等表示と被告各商品の商品等表示との類似性
(2)不正競争防止法2条1項3号該当性
ア 本件各商品が原告の商品であるか。
イ 被告各商品が本件各商品の形態を模倣したものであるか。
(3)原告の営業上の利益の侵害ないし侵害のおそれの有無
(4)原告の損害額

 

■当裁判所の判断

(下線・太字・着色筆者)

Ⅰ.不正競争防止法2条1項1号該当性-本件各商品の商品等表示が原告の商品等表示であるか(争点(1)ア)
1.事実認定
 裁判所は、以下のような事実を認定し、判断しました。

(1)「原告代表者は,発明の名称を「恒温冷媒及びその応用品」とする特許(特許第2869633号)の特許権者で」、「特許請求の範囲の請求項1は,「硫酸ナトリウムとアルミノ珪酸質からなるモンモリロナイト粘土を主成分とする活性ベントナイトを主成分として水を加えて調合し,更に炭素繊維を含む充填材を混入した恒温冷媒を封袋に密封したことを特徴とする恒温冷媒。」とされ,発明の詳細な説明における発明の効果は,「…本発明の恒温冷媒を応用した数々の製品は,人体の発熱や疲れを軽減し,暑さからくる不快感を払拭し快適な日常生活の友として優れた利用価値を有するものである。」などとされている。
(2)原告は「本件特許に係る恒温冷媒剤を用いた吸熱枕を開発・製造し…そのホームページにおいて,「癒眠 ゆーみん」という商品名の本件旧商品の通信販売を開始」。
(3)「原告が商品の取引先を探している」として、みずほ銀行天満橋支店が原告を被告に紹介し、原告代表者は「被告を訪問し,本件旧商品の商品説明を行」い、「性能試験等の資料を提供し」、被告は「原告との取引を開始することとし」た。

被告は「原告に対し,被告が作成途中のパッケージ(化粧箱)の案について意見を求め」、原告が「過去のデータからクレームになりやすい表現等のチェックを行った」。
(4)被告は「ゆーみん枕の販売を開始するに当たり,被告従業員がデザイン会社…の協力を得てパッケージをデザインし,被告の費用負担において…印刷を依頼し,パッケージを作成」。

「被告は,ゆーみん枕の商品名について,原告の要望により,原告の商標である「癒眠 ゆーみん」のうち,「ゆーみん」を使用することにし…「癒眠」は使用しないで、「常温快冷枕 ゆーみん」とした」。

被告は,原告が製造するゆーみん枕の本体を仕入れテスト販売として販売ルートを一部カタログ通販と量販店に限定し、平成18年3月から同年8月までの間、被告の作成したパッケージを使用して「常温快冷枕 ゆーみん」として販売」。

上記パッケージには,被告の表記はあるものの,原告の表記はなかった」。
(5)被告は「原告が製造するゆーみん枕の本体を仕入れ…同様にテスト販売として…被告の作成したパッケージを使用して「常温快冷枕 ゆーみん」として販売した」。被告は「同様に,被告の費用負担においてパッケージを作成したほか…パッケージを改定し,それに伴う費用負担をした改定されたパッケージには,被告の表記はあるものの,原告の表記はなかった」。
(5)被告は「原告に対し,本件特許に係る恒温冷媒剤を用いた製品として,吸熱マットの製造を依頼し,原告は従来から有していた金型に多少の修正を加えた金型を製作の上,平成20年1月から,ゆーみんマット本体の製造を開始」

また「被告は,同月,原告に対し,ハート型の吸熱枕の開発・製造を依頼し,使用する原材料の樹脂フィルムについては,厚み・強度等の基本性能のほか色についても被告が要望し原告は被告の要望を取入れ,被告の要望に適うハート型の金型を製作の…ハートゆーみん枕本体の製造を開始した。
(6)被告は,上記「テスト販売の結果を踏まえ,本件各商品を「常温快冷シリーズ」として商品化することとし」、上記と同様に「被告の費用負担において…依頼し,パッケージを作成」。被告は「市場の動向を見ながら,発注量を決定して原告に製造を依頼し,原告が製造する本件各商品本体を仕入れ」、一定期間、「本件各商品名表示を使用して,被告の販売ルートを通じて,本件各商品を販売した。その間,被告は,平成20年3月1日までに配布するためのチラシ等の制作を依頼した。本件各商品のパッケージには,被告の表記はあるものの,原告の表記はなかった。
(7)原告は、訴外「シースター」社と業務提携をし「平成20年3月1日付けで,被告に対し,今後,シースターが原告の営業部門を担い,原告は開発,製造に専念する旨を通知したが,同年末には,両社の業務提携関係は頓挫し,原告がシースターを相手方として金銭の支払を求める調停申立てをするに至った。この間…原告は、被告に…シースターとの業務提携解消へ向けて手続中であること,原告では設備増設は無理であることを伝えた」。
(8)被告は「その後,被告各商品本体をシースターから仕入れて販売するようになったが,現在は販売活動を見合わせている」。
 

2.裁判所は、以上に基づいて「本件各商品の商品等表示が原告の商品等表示であるか」について、以下のように認定し、「原告の商品表示であるとする原告の主張を採用」できないと判断しました。
(1)判断基準

「不正競争防止法2条1項1号の規定は,他人の周知な表示と同一又は類似する表示を使用して需要者を混同させることにより,当該表示に化体した他人の信用にただ乗りして顧客を獲得する行為を不正競争として禁止し,もって公正な競業秩序の維持・形成を図ろうとするものであるから,同号に規定する「他人」とは,自らの判断と責任において主体的に,当該表示の付された商品を市場に置き,あるいは営業行為を行うなどの活動を通じて,需要者の間において,当該表示に化体された信用の主体として認識される者をいうと解するのが相当である」
(2)「本件各商品名表示(ママ)」に関する判断(①乃至⑥付番:筆者)

 被告は、①「原告が製造する本件各商品の本体を仕入れ」、②「本件各商品のパッケージをデザインして作成し」、③「本件各商品名表示を使用し」、④「被告の販売ルートを通じて、本件各商品を販売し」,⑤「本件各商品のパッケージには,被告の表記はあるものの,原告の表記はなかった」ことに照らすと、「自らの判断と責任において主体的に,本件各商品表示を付した本件各商品を市場に置き,需要者の間において本件各商品表示に化体された信用の主体と認識されるのは,被告であると認めるのが相当である」。

⑥「これは本件各商品の販売に至る経過に照らしても肯定できる」。

「他方…販売前においてパッケージの案について過去のデータからクレームになりやすい表現等のチェックを行ったことは,原告が被告のパッケージ作成に協力したことを示すにすぎ」ず、「上記認定に影響を及ぼ」さない。


3.商品の形態について

(1)判断基準

 「商品の機能を発揮したり商品の美観を高めたりするために適宜選択されるものであり,本来的には商品の出所を表示する機能を有するものではないが,ある商品の形態が他の商品と比べて顕著な特徴を有し,かつ,それが長期間にわたり特定の者の商品に排他的に使用され,又は短期間であっても強力な宣伝広告等により大量に販売されることにより,その形態が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には、商品の形態が不正競争防止法2条1項1号の商品等表示として保護されることがあるものと解するのが相当である。しかしながら,本件各商品の形態が他の商品と比べて顕著な特徴を有することを認めることができる証拠はないから,同号の商品等表示として保護されるものとはいえない」。

(2)本件に関する判断

 「たとえ本件各商品の形態が同号の商品等表示として保護されるとしても…本件各商品の形態に化体された信用の主体として認識されるのは,本件各商品名表示の場合と同様に,被告であって原告ではない」。「なお,原告は,説明の表示が商品等表示であるかのような主張をするが,説明の表示が出所識別機能を有する場合を容易に想定できないし…具体的な該当箇所を主張するものでもないから,採用できない」。
 

4.小括

 裁判所は、「以上のとおり,本件各商品の商品等表示が原告の商品等表示であるとは認められない」と認定し、「その余について判断するまでもなく,被告各商品の販売は,不正競争防止法2条1項1号に該当しない」と判断しました。

 

Ⅱ.不正競争防止法2条1項3号該当性-本件各商品が原告の商品であるか(争点(2)ア)

 裁判所は、「ゆーみん枕については,原告と被告とが共同開発して被告が市場に置いたものと認められる」とし、「このような場合,第三者の模倣に対しては両者が不正競争防止法2条1項3号の保護を受ける余地があるとしても原告被告両者間の関係においては,ゆーみん枕は相互に「他人の商品」に該当せず,原告は,被告に対し,同号に基づく請求はできないものというべきで」、「本件各商品のうち,ゆーみんマット,ハートゆーみん枕については,原告は,被告からの開発依頼に応じて,従来の金型を修正し又は新たに金型を作成して,これを製造した」から、「開発も含めてこれを商品化して市場に置いたのは被告であり,原告とは認められないから,原告の商品とは認められない」と判断しました。よって「本件商品のうち,ゆーみんマット及びハートゆーみん枕は原告の商品であるとは認められないし,ゆーみん枕については,それが被告にとって「他人の商品」であるとは認められない」ため、「被告各商品の販売は,不正競争防止法2条1項3号に該当しない」と判断しました。
 

■結語

 裁判所は、「被告各商品の販売は,不正競争防止法2条1項1号及び3号に該当しないから,同法3条1項に基づく差止請求及び同法4条に基づく損害賠償請求はいずれも理由がない」とする一方、「売買契約に基づく代金支払請求」…(省略)…、その請求原因事実が認められるから(前提事実(1)及び(5)),理由がある。

 

■BLM感想等 

 本件は、分業体制において、製造業者と販売業者が紛争となった場合の裁判例として、学説上取り上げられる事例です。被告は、特許権を取得し、原告代表者の妻(A)名義をもって,「癒眠 ゆーみん」を商標登録したており、そのホームページにおいて,「癒眠 ゆーみん」という商品名の吸熱枕(本件旧商品)の通信販売を開始していました。それにも関わらず、「常温快冷枕 ゆーみん」の表示を付した商品に係る「信用の主体」(すなわち1号の「他人」)は、「被告」と結論づけられており、原告としても納得のいかなかったことでしょう。しかしテスト販売をして、市場で受け入れられる商品を最終的に作っていったのは原告であると裁判所は評価したわけです。

 すなわち、裁判所は、「不正競争防止法2条1項1号の規定は,他人の周知な表示と同一又は類似する表示を使用して需要者を混同させることにより,当該表示に化体した他人の信用にただ乗りして顧客を獲得する行為を不正競争として禁止し,もって公正な競業秩序の維持・形成を図ろうとするものであるから,同号に規定する「他人」とは,自らの判断と責任において主体的に,当該表示の付された商品を市場に置き,あるいは営業行為を行うなどの活動を通じて,需要者の間において,当該表示に化体された信用の主体として認識される者をいうと解するのが相当である」とし、被告が実際に市場に受け入れられるような商品を開発し、これを実際に市場で販売していく過程を認定しています(上記①乃至⑤)。その過程の中で「本件各商品のパッケージには,被告の表記はあるものの,原告の表記はなかった」ことも認定しています。

 その上で、「自らの判断と責任において主体的に,本件各商品表示を付した本件各商品を市場に置き,需要者の間において,本件各商品表示に化体された信用の主体と認識されるのは,被告である」と認めました。

 さらに「これは本件各商品の販売に至る経過に照らしても肯定できる」としていますが、この点は、被告が「原告の要望により,原告の商標である「癒眠 ゆーみん」のうち,「ゆーみん」を使用することにし」たが、「「癒眠」は使用しないで、「常温快冷枕 ゆーみん」としたこと、「被告は,原告が製造するゆーみん枕の本体を仕入れ、テスト販売として販売ルートを一部カタログ通販と量販店に限定し…被告の作成したパッケージを使用して「常温快冷枕 ゆーみん」として販売」したこと、「被告の費用負担においてパッケージを作成した」こと、「パッケージを改定し,それに伴う費用負担をし」たこと、被告は「市場の動向を見ながら,発注量を決定して原告に製造を依頼し,原告が製造する本件各商品本体を仕入れ」たこと等を指すと考えます。

 一方、被告は「原告に対し,本件特許に係る恒温冷媒剤を用いた製品として,吸熱マットの製造を依頼し,原告は従来から有していた金型に多少の修正を加えた金型を製作」したこと、「被告は,同月,原告に対し,ハート型の吸熱枕の開発・製造を依頼し,使用する原材料の樹脂フィルムについては,厚み・強度等の基本性能のほか,色についても被告が要望し,原告は被告の要望を取入れ,被告の要望に適うハート型の金型を製作の…ハートゆーみん枕本体の製造を開始した」ことなどにおいて、被告が果たした役割に着目して、1号の他人(信用の主体)と認められることはありませんでした。
 結局、商品とは、物理的に存在する製品ではなくて、商品・その他の表示の使用を使用して、個性化された一群の商品を識別させることであるといえましょう。そういった商品を作ったのは「被告」ということになってしまったのですかね。

 なお、本件は周知性は認められていませんが、1号の「他人」を積極的に認めている点、紛争解決の機能を発揮しようという趣旨でしょうか。それとも、周知性を認定するのは、1号の「他人」を認定する必要があるとの趣旨でしょうか。

 なお、不正競争防止法2条1項3号の適用上、裁判所は「ゆーみん枕については,原告と被告とが共同開発して被告が市場に置いた」と認めています。主に物理的な側面としての製品(外観デザイン含む)の帰属は、両社ということになるかもしれません。

 

By BLM

 

 

 

 

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