不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その88

 本日は、製造業者・販売業者の関係にあった当事者の紛争事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号28100127)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  東京地判平16・12・15〔「撃/GEKI」饅頭事件〕平16(ワ)3173(知財高判平成17・9・15〔同・控訴審〕平17(ネ)10022)

原告 有限会社シップス
被告 株式会社防衛ホーム新聞社

 

■事案の概要等 

 本件は、原告が、被告による、漢字の「撃」と欧文字の「GEKI」を主な要素とする被告標章を包装に付した饅頭(以下「被告饅頭」),被告標章を各包装に使用したせんべい(以下「被告せんべい」)(以下「被告商品」ともいう)を販売した行為に対し,①被告商品の販売は不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為や著作権(複製物の譲渡権)侵害に該当するなどと主張して,被告に対し,不正競争防止法3条又は著作権に基づく被告商品の販売等の差止等求めた事案です。

 本ブログでは、不正競争防止法上の主張を主に見ていきます(著作権法に係る部分は省略します。)。

 

◆争いのない事実等
1.当事者
・原告は,菓子等の販売等を業とする。
・被告は,新聞の発行等を業とする。
2.被告の行為
 被告は,平成14年2月から同年12月までの間,漢字の「撃」と欧文字の「GEKI」を主な要素とする「本件標章」を包装に付した饅頭(以下「本件饅頭」)を原告あてに発注し、仕入れた本件饅頭を全国の防衛庁又は自衛隊の関連施設の売店で販売した(ただし、原告と被告との間の取引の内容,及び本件饅頭が原、被告いずれの商品であることを示す商品等表示であるかについて争いあり)。被告は,平成15年11月ころから被告饅頭1を,平成16年4月ころから被告せんべいを,平成16年6月ころから被告饅頭2をそれぞれ自衛隊の関連施設の売店で販売している。

 

◆争点
(1)本件標章は,本件饅頭が原告の販売する商品であることを示す周知な表示であるかどうか。
(2)被告商品の販売は,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為となるかどうか。
(3)被告せんべい及び被告饅頭2の販売は,著作権侵害となるかどうか。
(4)原告の被った損害額はいくらか。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字・着色筆者)

Ⅰ.争点1(本件標章は、本件饅頭が原告の販売する商品であることを示す周知な表示か)
1.事実認定
裁判所は以下のように認定し、判断しました。

(1)本件饅頭の製造に至る経緯
①原告は「光洋商事の完全子会社で」、「光洋商事の代表取締役社長は、原告代表者…Aの母親で」、「Aは,光洋商事の専務取締役を兼務」。「光洋商事及び原告は,ともに土産物や記念品を販売することを主な業務としている」。
②被告は「防衛庁及び自衛隊の関係者向けに,「防衛ホーム」新聞を毎月2回」を発行。他に「新聞の号外を不定期に発行し,これを防衛庁及び自衛隊の関連施設の売店で販売」。
Aは,被告(C)に対し「光洋商事作成の「オリジナル饅頭製作のご案内」と題する書類等を持参し、東京都庁限定販売の「東京都庁おまんじゅう」や「日本武道館まんじゅう」などの例を挙げながら,饅頭本体に野菜等の天然色素を使用して文字や絵柄を印刷するオリジナル饅頭を被告の商品として製造販売することを提案した」。「この提案は、Aが光洋商事の企画として被告に持ちかけたものであった」。
④被告は「Aの上記提案を受け,「防衛ホーム」新聞を販売している防衛庁及び自衛隊の売店でオリジナル饅頭を販売しようと考え,Aに対して,オリジナル饅頭の製造を委託する意思がある旨を伝え」た。

 ⑴被告側:被告は、「オリジナル饅頭の菓子箱の包装紙及び饅頭本体に付する絵柄のデザインの検討を始め,被告の専属データ作成者であるDが、饅頭本体に付する絵柄として戦車,戦艦,戦闘機を素材とした3種類の絵柄…及び菓子箱の包装紙として,外周部を迷彩柄とし「陸海空おまんじゅう」との商品名を記載したデザイン」を作成し、原告代表者Aに送付。

 ⑵原告側:「Aは,中央に被告がウェブページで使用している戦闘機,戦車及び戦艦の写真…を配し,「国の誉れ」との商品名を記載したデザインを被告に送付」。

 ⑶被告側:「包装紙に被告のウェブページ上の上記写真を使用することは,被告の取締役であるBが発案」。
⑤原告側:Aは「饅頭本体の絵柄の印刷に使用できる天然色素が限定されていることなどから,被告から送付された上記饅頭本体の絵柄の配色や細部を若干修正する必要が生じたため」、「Bに対し,その旨連絡し,修正の了解を得た」。「上記修正は,微調整の範囲に止まり,本件饅頭の饅頭本体の絵柄は,Dが作成した上記絵柄と実質的に同一」。
⑥被告側:「Dは,Aに…饅頭本体の絵柄及び包装紙のデザイン案をメールによって送信し」、「A(光洋商事の肩書付き)は,Bに対し,同月22日,上記絵柄及びデザインを受け取った旨の返信のメールを送信したが,その追記として「饅頭ネーミング「撃」弊社では好評です。「撃」陸上,海上,航空バージョンで是非行きましょう。」と記載した。
⑦原告側:Aは,被告に対し「「オリジナル饅頭について」と題する書簡を送付」。「同書簡は,原告名義で作成され…オリジナル饅頭の注文書と包装紙決定案が同封されていた。包装紙案の表面のデザインは,本件饅頭のものと同一であるが,裏面の責任票の販売者欄には,「株式会社光洋商事N」と記載」。「注文書のあて先は,原告とされていた」。なお「本件饅頭の包装紙裏面の責任票の販売者欄には,「有限会社シップスN」と記載」。

(原告側、被告側との記載はブログ筆者)


(2)本件饅頭の販売状況等
①被告は、原告に「平成15年2月10日,前記注文書によって本件饅頭を2000箱注文した。その後,同年12月まで,被告は原告に対し,前記注文書によって本件饅頭を合計1万9718箱注文し,これらの一部を販売促進用の見本品としたほか,防衛庁及び自衛隊の関連施設の売店23店舗で販売」。「被告の注文により,自衛隊の売店等に納品された本件饅頭の数量は,以下のとおり。
 平成14年2月  700箱
      3月 1290箱
      4月  740箱
      5月  760箱
      6月  300箱
      7月  380箱
      8月 1808箱
      9月 1580箱
     10月 5020箱
     11月 3140箱
     12月 4000箱
(2)Aは、被告に「平成15年2月下旬ころ,被告を原告の取扱製品の販売代理店とすることを定める売買基本契約書(代理店用)」及び「本件饅頭の売買取引に関する覚書(代理店用)」の案を交付した。その後,A(光洋商事の肩書付き)は,Bに、「本件饅頭の納品についてメールを送信したが,その際,上記契約書等によって契約を進めたい旨書き添えた」が、「被告は,原告の販売代理店となる意思がなかったので,上記売買基本契約書及び覚書の締結を拒否した」。
(3)A(光洋商事の肩書付き)は,被告に「本件饅頭の納入価格,サービス品の提供,販売促進用のサンプル個数,蝋見本等に関する被告の要望に対する回答を記載した書簡をファクシミリにより送信」。
(4)A(光洋商事の肩書付き)は、Bに「本件饅頭の売り場用ポスターのファイルを添付し,その旨添え書きをしてメールを送信」。「本件饅頭の包装紙表面の絵柄,饅頭本体に印刷する絵柄などとともに,「自衛隊限定販売」,「新商品情報」,「自衛隊オリジナル饅頭 撃」などと大きく書かれ,「販売元:(株)防衛ホーム新聞社」と被告名が記載されていた」。
(5)フジテレビ系列で「放映されたテレビ番組「トリビアの泉」の中で,自衛隊でしか買えない饅頭として,本件饅頭が紹介され」、「同番組で取り上げられたムダ知識(トリビア)をまとめた書籍「トリビアの泉」第4巻にも,本件饅頭が掲載」。
(6)被告は「商標「撃(げき)」について、指定商品を第30類「菓子及びパン」,第33類「日本酒」として商標登録出願。
(7)光洋商事は,被告に「本件饅頭の絵柄の印刷に使用するフィルムの製造工場が改装工事を行うため,フィルムの生産を」一定期間、「一時中止する旨のメールを送信」。
(8)被告は「包装紙の標章を本件標章から被告標章1に変更した被告饅頭1の販売を開始」。「Aは,被告に…被告饅頭1の販売の中止を求めたが,被告はこれを拒否した」。


2.判断
(1)本件標章の示す商品主体
 裁判所は、認定事実に基づき、本件標章が原告の商品等表示であるかについて以下のように認定し、「本件標章は,本件饅頭が被告の商品であることを示す商品等表示である」と結論付けました。
 

 本件饅頭の製造販売は「光洋商事のAが被告に対して提案したもの」だが,「Aの提案内容は,被告のオリジナル饅頭を製造販売するというもので」、「被告は,Aの提案を受けて,自社のオリジナル饅頭の販売を決意し,その製造を委託する意思がある旨をAに伝えたこと」、

「本件饅頭は,饅頭本体に天然色素を用いて絵柄を印刷するところに特徴があるが,その絵柄のデザインは,被告において考案したもので」、「菓子箱を包む包装紙のデザインについても被告が検討し,表面の中央に被告のウェブページの写真を用いること,外周を迷彩柄とすることは被告の提案に係るもので」、「「撃」という商品名についても被告が発案し」、

本件饅頭は「被告が注文した数量しか製造されず,その販売もすべて被告を通じて行われたこと」

本件饅頭の販売当初にAが被告に送付した売り場用ポスターには,販売元として被告名が記載されていること等の事実に照らすならば,

本件饅頭は被告の商品として企画され,その製造が光洋商事又は原告に委託されたものと認めるのが相当であるから,本件標章,被告の商品であることを示す商品等表示である」と解するのが相当である。


 裁判所は、原告の主張するように「被告が本件饅頭の独占的な販売代理店」であったかについて、客観的な証拠がないとして否定し、「かえって、被告は,本件饅頭の製造に当たり,饅頭本体の絵柄や包装紙のデザインの検討を主導的に進め,最終的に被告の提案に係る部分が多く採用されていることから,被告は商品内容自体を決定する立場にあったといえること」、「Aが被告に対して,被告を原告の販売代理店とする旨の契約書案…を交付したのに対し,被告がその締結を拒否し,その後はAも契約締結の件を放置している」等の事実に照らせば,「被告が原告の販売代理店となる旨の契約がされたと認定」できないとしました。


 裁判所は、原告が「饅頭本体の絵柄及び包装紙のデザインを決定したのは原告であり,本件標章も原告が考案した」と主張するのに対し、「饅頭本体の絵柄については,Dの作成した絵柄…に対してAが行った修正…は,印刷に使用できる色素の制約による微調整にすぎ」ず、「包装紙のデザインのうち…原告代表者は…本件標章の作成手順を説明し」、「確かに,原告代表者の説明する手順によって,本件標章の字体を作成」できるが、「その手順によれば,そのような字体の作成ができることを意味するに止まり、このことから直ちに原告代表者が「撃」という商品名を考案したとまでは認め」られないと判断しました。

 

 裁判所は、本件饅頭の包装紙裏面の責任票の販売者欄について、「責任票の記載は,本件饅頭が食品であるため,その安全性の確保等の関係で表示されるものであり,被告が光洋商事又は原告に本件饅頭の製造を委託していたことからすれば,責任票の記載が直ちに商品主体としての販売者を表示しているとはいえない」等の事実に照らし、「責任票の記載は,本件饅頭が被告の商品」とする認定を左右しないと判断しました。


(2)本件標章の周知性
 裁判所は「本件標章は,被告の商品等表示であるから,この点で既に原告の不正競争防止法に基づく請求は理由がないが,念のため,本件標章の周知性の有無についても判断する」とし、以下判断しました。
 「本件饅頭は,平成15年2月から販売開始されたが,同年12月までの間に見本品とされたものを除き,約1万9000箱が小売販売され」、「原告は,その後も本件饅頭を被告を通さずに販売した旨主張するが,その数量,時期等についての主張立証はな」く、「このように本件饅頭の販売数は約11か月という販売期間を考慮すると,かなり少ない」。

 「この点,原告は,上記販売数を驚異的な数量であると主張」するが、「もともと販売数が少ない商品と比べて本件饅頭の販売数が多いと述べているだけで…絶対数が上記程度にすぎないことからすれば,原告の上記主張は採用できない」。
 「また,本件饅頭は…フジテレビ系列で放映された番組「トリビアの泉」で紹介されたことがあり…その後の…販売数は,それ以前の販売数よりも増加している」が、「同年10月から12月までの間の販売数の約75パーセントは,特定の売店(朝霞駐屯地広報センターSAKURA)のものであり,本件饅頭の取扱店が全体として販売数を増加させたとはいい難い」。(…省略…)
 以上の事実に加え「本件饅頭は,防衛庁及び自衛隊の関連施設の売店でのみ販売されていたが、全国にそのような施設は約400か所あり…,そのうち本件饅頭が販売された売店は二十数店舗にすぎないこと等の事実も併せ考慮すれば,原告の上記主張は採用することができず,本件標章は,一般消費者はもとより,自衛隊関係者の間においても周知であったとは認められない」。
 

(3)小括
 裁判所は、「以上のとおり,本件標章は原告の商品等表示であるとは認められず,また,周知な商品等表示であるとも認められない。したがって,原告の不正競争防止法に基づく請求は,理由がない」と判断しました。


Ⅱ.争点3(被告せんべい及び被告饅頭2の販売は,著作権侵害となるかどうか)
…(省略)… 裁判所は、「原告の著作権に基づく請求は,理由がない」と判断しました。

■結語

 「その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない」。

 

■BLM感想等 

 本件は、分業体制において、製造業者と販売業者が紛争となった場合の裁判例として、学説上取り上げられる事例です。裁判所は、いわゆる対内関係的アプローチを採用していると評価されているものと考えます。 どの部分がそのようなアプローチなのかは、いかのあたりでしょう。

 裁判所は、原告の主張するように「被告が本件饅頭の独占的な販売代理店」であったかについて、客観的な証拠がないとして否定し、「かえって、被告は,本件饅頭の製造に当たり,饅頭本体の絵柄や包装紙のデザインの検討を主導的に進め,最終的に被告の提案に係る部分が多く採用されていることから,被告は商品内容自体を決定する立場にあったといえる」と判断しています。

 そのほか、 すなわち、本件裁判所は、「本件饅頭は被告の商品として企画され,その製造が光洋商事又は原告に委託されたものと認めるのが相当であるから,本件標章は,被告の商品であることを示す商品等表示である」と解するのが相当であると判断しており、当事者において、最初にどのように約束したかを認定しています。この点からも被告の商品と言えるのではないかと思います。また「Aが被告に対して,被告を原告の販売代理店とする旨の契約書案…を交付したのに対し,被告がその締結を拒否し,その後はAも契約締結の件を放置している」等の事実に照らせば,「被告が原告の販売代理店となる旨の契約がされたと認定」できないとし、これらの判断手法は、需要者の視点から認定することはしておらず、対外関係的アプローチを採用していないと考えます。

 本件で、裁判所は周知性を認めませんでしたが、被告の商品等表示と認めた以上、周知性を認めれば、被告は原告に対し差止請求ができ、損害賠償請求もできる可能性が出てくるため、原告としては認められなくてよかったともいえるでしょう。

 なお、ブログ筆者は、対内関係的アプローチと対外関係的アプローチ(これに加えて、折衷的アプローチ)とする分け方が、いまひとつわからないし、まさに、この分け方に疑問をもって考察しているところなのです。商品等表示の主体を決定するに当たっては、対内関係的アプローチを採用するのが妥当とも思いますが、不正競争防止法2条1項1号の他人の商品等表示として周知なもの、という行為規制で保護される客体は、無形のもので、そもそも「他人」は匿名出所でも認められるわけで、実際に管理し、差止請求等なしうる者を、対外関係から決めるというのでは、どうかな??と思うわけですが、まあもう少しここら辺は検討していかないといけませんね。

 

By BLM

 

 

 

 

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