不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その79

 本日は、長らく使用許諾関係にあった当事者の紛争事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号28080659)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  東京地判平14・12・27〔ピーターラビット対ファミリア事件・第一審〕平12(ワ)14226(東京高判平16・3・15〔「同・控訴審〕平15(ネ)831、最三小平成16・9・21〔同・上告審〕平成16(オ)976、同(受)1028(上告不受理)

甲事件原告・乙事件被告(以下,「原告」という。) フレデリック・ウォーン・アンド・カンパニー・リミテッド
甲事件被告・乙事件原告(以下,「被告」という。) 株式会社ファミリア

 

■事案の概要等 

 原告が被告に対し、原告表示は、原告らの商品表示又は営業表示として周知著名であるところ、被告はこれと同一である被告表示を使用している等と主張して、被告表示を付した商品の製造等の差止め等を求めた事案、及び、被告が原告に対し、被告が本件衣類を販売する行為は不正競争行為に該当しないとして、同法に基づく差止請求権等が存在しないことの確認を求めた事案です。

 

◆争いのない事実等
1.原告及び原告商品化事業の経緯等
(1)「原告は,ベアトリックス・ポター(以下「ポター」という。)が創作したピーターラビットという名のうさぎを登場人物とする「ピーターラビットのおはなし」を始めとする一連の絵本の出版を1901年に開始し,1903年にはピーターラビットの人形について英国特許を取得してピーターラビットの商品化事業(以下原告によるピーターラビットに関する商品化事業を「原告商品化事業」という。)を開始した」。
(2)「原告は,その後1983年にペンギンブックス社の子会社となり、また1984年にはコピーライツ社を全世界における原告商品化事業に関する原告のエージェントとして,原告商品化事業の拡大を図ってきており,現在ではライセンシーは世界中で約350社を数え,1999年度の年間のロイヤルティ収入は年間1400万ドルに上っている」。
(3)原告は,日本において,昭和46年(1971年)に有限会社福音館書店(以下「福音館」という)を通じて「ピーターラビットのおはなし」の絵本の販売を開始し,昭和51年(1976年)には福音館を日本における原告商品化事業のエージェントとし,被告とライセンス契約を締結するなどして,日本における原告商品化事業を開始した」。 
2.被告及び被告表示の使用等
(1)被告は,乳幼児及び子供用品の製造加工販売等を業とする株式会社である。
(2)被告は,別紙被告表示目録記載の表示(以下,「被告表示(1)」等といい,これらをまとめて「被告表示」という。)のうち,被告表示(1)ないし(3)を付した子供用被服,文房具,日用雑貨品等の商品を製造販売していた」。「なお,平成13年12月7日被告表示(1)(2)(4)を付した被告製造に係る商品の譲渡等を禁止する仮処分命令(以下「本件仮処分命令」という。)が発せられ,その後被告は上記商品を販売していない」。
(3)「被告は,別紙物件目録1及び2記載の衣類(以下「本件衣類」という。)を製造販売することを予定している」。
3.原告と被告の契約関係
(1)「原告と被告は,昭和51年(1976年)9月23日,原告商品化事業に関するライセンス契約(以下「第1ライセンス契約」という。)を締結した」。「第1ライセンス契約は,昭和62年(1987年)9月30日に新たなライセンス契約(以下「第2ライセンス契約」という。)に改定された」。「第2ライセンス契約は,平成11年(1999年)10月19日をもって終了し,その後現時点に至るまで,原告と被告との間に契約関係は存在しない」。
(2)原告,被告,福音館は,昭和62年(1987年)9月30日,同年4月13日付けの「レター オブ アグリーメント(Letter of Agreement)」(以下「本件合意」という)を締結した。
4.被告名義の商標権の存在
 「被告は,別紙商標権目録記載(1)ないし(6)の商標権の登録名義人である(以下,別紙商標権目録記載の商標権を「本件商標権(1)」等といい,これらをまとめて「本件商標権」という。)。被告は,本件商標権(7)ないし(10)の登録名義人であった。本件商標権(8)及び同(10)については,存続期間が満了し,被告による更新手続はされていない。被告は,本件商標権(7)及び同(9)を放棄し,特許庁に対し,平成13年11月8日付けで「放棄による商標権抹消登録申請書」を提出した」。

 

(以下:BLM調べ)

別紙商標権目録記載(1):登録第1152746号「ピ-タ-ラビット\PETERRABBIT」(第17類)

別紙商標権目録記載(2):登録第1391892号「ピ-タ-ラビット\PETERRABBIT」(第16類)

別紙商標権目録記載(3):登録第1406656号「ピ-タ-ラビット\PETERRABBIT」(第25類)

別紙商標権目録記載(4):登録第1412699号「ピ-タ-ラビット\PETERRABBIT」(第20類)

別紙商標権目録記載(5):登録第1418120号「ピ-タ-ラビット\PETERRABBIT」(第19類)

別紙商標権目録記載(6):登録第1461945号「ピ-タ-ラビット\PETERRABBIT」(当時第21類(第3,6,8,10,14,18,21,25,26類)

別紙商標権目録記載(7):登録第1424711号「図形(ピーターラビットの絵)」(第25類)

別紙商標権目録記載(8):登録第1442705号「図形(ピーターラビットの絵)」(第16類)

別紙商標権目録記載(9):登録第1427985号「図形(ピーターラビットの絵)」(第20類)

別紙商標権目録記載(10):登録第1456051号「図形(ピーターラビットの絵)」(第17類)

 

◆本件の争点
【甲事件】
争点1.被告の被告表示使用行為が,不正競争防止法2条1項1号,2号の各要件に該当するかどうか
争点2.ア 本件商標権(1)ないし(6)に基づく適用除外の成否
   イ 先使用による適用除外の成否
   ウ 被告による本件商標権(1)(2)の時効取得の成否,同商標権に基づく適用除外の成否
   エ 不正競争防止法2条1項2号の不正競争行為についての同法附則3条1号による適用除外の成否
争点3.被告は原告に対し本件合意に基づいて本件商標権(1)ないし(6)について移転登録義務を負うかどうか
争点4.原告が被った損害額
【乙事件】
争点5.ア 訴えの適法性
   イ 被告による本件衣類の販売等が,不正競争行為に該当するかどうか

 

■当裁判所の判断

(下線・太字・着色筆者)

Ⅰ.被告行為が不競法2条1項1,2号の各要件に該当するか(争点1)
 裁判所は、認定事実等に基づき以下判断しました。

(1)「原告表示(1)(3)(4)は,原告及び原告表示に係る商品化事業に関してライセンス契約を締結しているライセンシーで構成されるグループ(原告グループ)の商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識された商品表示となっている」と認めました。そして「原告は,多くのライセンシーとライセンス契約を締結し,それらのライセンシーは統一された表示(原告表示(1)(3)(4))を用いている上,商品イメージを統一するための管理等もされているから,原告表示に係る商品化事業に関してライセンス契約を締結しているライセンシーで構成されるグループ(原告グループ)が存するものと認められる」。

(2)「原告表示(1)(3)(4)と被告表示を対比すると,被告表示(1)は原告表示(1)と,被告表示(3)は原告表示(3)と,被告表示(4)は原告表示(4)と,それぞれ同一であり,

被告表示(2)は,原告表示(1)とは,アルファベットの大文字か小文字かの違いしかないから,原告表示(1)と類似するものと認められ,その類似性は高い」。

(3)「原告表示が広く知られていること,…被告表示と原告表示は同一又は高い類似性を有すること及び…被告は原告からライセンスを受けて営業を行ってきたことからすると,被告表示(1)ないし(4)の使用は,被告が原告グループの一員であるとの誤信を生じさせるおそれがある」。

 なお「被告は,被告の商品は,我が国において衣類では著名な表示…「familiar」の欧文字が明瞭に表示され…著名な被告の店舗でのみ販売されている上,「familiar」の欧文字が表示されたハンガーにつるされ,「familiar」の欧文字が表示された紙袋に入れて販売されているから,被告表示が付された商品が具体的取引の実情下において原告の商品と誤認混同されるおそれはないと主張するが」、「衣類に付されている「familiar」の欧文字が著名な表示であり,著名な被告の店舗でのみ上記の原告主張のような態様で販売されてい…ても,上記誤信を生じることは明らかで…被告の主張は採用できない」。
(4)以上によると「被告が被告表示を付した商品を製造し,被告表示を付した被告製造に係る商品を譲渡し,譲渡のために展示し,その包装及び広告に被告表示を使用する行為は,不正競争防止法2条1項1号規定の要件をすべて具備している」。


Ⅱ.ア)本件商標権…に基づく適用除外の成否、イ)先使用による適用除外の成否、ウ)被告による本件商標権(1)(2)の時効取得の成否,同商標権に基づく適用除外の成否、エ)不競法2条1項2号の不正競争行為についての同法附則3条1号による適用除外の成否(争点2)

 裁判所は、認定事実等に基づき以下判断しました。
1(1)「被告による本件商標権(2)ないし(10)についての商標登録の出願は,第1ライセンス契約が締結されるより前にされているが,出願時には,すでに第1ライセンス契約の締結交渉がされ…出願の約5か月後には第1ライセンス契約が締結されていること,第1ライセンス契約では,被告は,ライセンス許諾物品について,商標登録し,商標を表示する義務を負担していると解されること,第1ライセンス契約では,被告は,財産(「ピーターラビットのおはなし」等に出てくるポターのイラストレーション)に関連するすべての権利が,契約によって被告に許諾されたものを除いて,原告に留保されることを認めていること,本件商標権(2)ないし(10)に係る商標は,「ピーターラビット」と「PETERRABBIT」を二段書きにしたもの又はピーターラビットのイラストレーションであり,そのうち,ピーターラビットのイラストレーションについては,原告が著作権を有していること,第1ライセンス契約も含まれる原告商品化事業において,原告表示(1)(3)(4)は,ポターが著作したピーターラビットの図柄とともに使用されてきたこと,本件合意において,原告と被告は,本件商標権が原告の承諾を得て被告名義で登録された旨の合意をしていること,以上の事実が認められる」。

「これらの事実に上記…認定したその余の事実を総合すると,本件商標権(2)ないし(10)は,被告が,原告との間で第1ライセンス契約を締結するに当たり,原告の承諾の下に,出願して登録を得たものと認められ,被告が,原告との間のライセンス契約とは関係なく,独自に取得したものとは認められない」
 なお「被告は,原告には,我が国においては,商標権の取得について関心がなかった旨主張する」のに対し「認定の第1ライセンス契約では,被告が商標権を取得する旨定められ,「原告も福音館も,上記登録が交付されるかどうかについて保証せず,また,当該登録の拒絶はいかなる方法でも本契約に基づくライセンシーの義務に影響を及ぼさない。」とされている。また,原告が,本件商標権(2)ないし(10)の登録維持について費用を支出したことを認める証拠はない。しかし,他方,上記認定のとおり,第1ライセンス契約では,原告は,被告に対して,商標登録の出願,商標表示の義務を課していると解されるのであり,上記「」内の条項も,商標が登録されるかどうかが契約締結の時点では不確定であることからそれがライセンス契約の効力に影響を及ぼさないことを注意的に規定したに過ぎないものと認められる。また,原告が商標権の登録維持に費用を支出していないとしても,被告に対して,商標登録の出願,商標表示の義務を課している以上,原告が,被告の費用で登録維持されるべきものと考えて費用を支出しなかったとしても不自然ではない。さらに,被告による商標権(1)の取得については,後記エのとおりであると認められる。したがって,原告は,我が国においては,商標権の取得について関心がなかったとは認められず,上記認定のとおり,本件商標権(2)ないし(10)は、被告が,原告との間のライセンス契約とは関係なく,独自に取得したものとは認められない
(2)また、上記認定事実を総合すると「本件商標権(2)ないし(10)に係る商標登録の出願がされた当時,原告は,日本では原告商品化事業を始めたばかりで」「外国においては,すでに多くのライセンシーとの間で契約を締結して,多くの商品について原告商品化事業を行」い、「ピーターラビットそれ自体が絵本によって広く知られていたことと相まって,原告による原告商品化事業は,外国(特に英国)においては,広く知られていた」。「この事実に,被告が原告とライセンス契約を締結したライセンシーであったことを考え併せると,被告が,原告の承諾を得ることなく,本件商標権(2)ないし(10)に係る商標登録の出願をした場合には,商標法4条1項7号に該当する可能性が高い」。 
 なお「被告は…出願…当時,我が国において,「ピーターラビット」や「PETERRABBIT」が知られていなかった旨主張するが,そうであるとしても…原告商品化事業が外国で広く知られていたこと等からすると,被告の上記主張は上記認定を左右」しない。
(3)以上から「被告が,本件商標権(2)ないし(10)を有しているとしても,それは,原告とライセンス契約を締結し,その承諾を得たことによるものであって,そうでなければ,これらの商標権を有することができなかった可能性が高い」から、「第1ライセンス契約終了後に,原告からの不正競争防止法に基づく請求に対して,これらの商標権を有していることを抗弁として主張することは許されなかった
(4)なお「本件商標権(1)についても,本件商標権(2)ないし(10)と同様に,被告は,原告との間で締結した第1ライセンス契約に関連して,原告の少なくとも事後的な承諾の下に,移転を受けたものと認められ,被告が,原告との間のライセンス契約とは関係なく,独自に取得したものとは認められない」。「本件商標権(1)についても,第1ライセンス契約終了後に,原告からの不正競争防止法に基づく請求に対して,この商標権を有していることを抗弁として主張することは許されなかった」。


(5)「第2ライセンス契約及び本件合意を締結したのであるが…第2ライセンス契約の下においても,被告が本件商標権(1)ないし(10)を有しているのは,原告とライセンス契約を締結し,その承諾を得たことによるものであって,そうでなければ,この商標権を有することができなかった可能性が高い」。「本件合意には,被告が本件商標権を有すること,本件商標権は,第2ライセンス契約の対象ではないこと,被告が,その意思により,ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合,被告は相互に合意する合理的な条項及び条件に従って本件商標権を原告に移転することが定められている」。「本件合意のうち,被告が本件商標権を有する旨の定めは,被告が本件商標登録を出願して,登録され,本件商標権を有していることを定めていると認められるが…被告が本件商標権を有するに至った経緯からすると,被告が,原告とは関係ない独立した立場で本件商標権を有していることまで定めているとは認められない」。「次に,本件商標権は,第2ライセンス契約の対象ではない旨の定めは,被告が本件商標権を有しているので,他の著作権などの権利のように,ライセンス契約において,その権利自体をライセンスの対象としているものではないことを定めて」おり、「被告が,ライセンス契約とは無関係に,独立した立場で本件商標権を有していることまで定めているとは認められない。被告が,その意思により,ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合,被告は相互に合意する合理的な条項及び条件に従って本件商標権を原告に移転する旨の定めは,被告が,一定の場合に,本件商標権を原告に移転することを定めたことが認められるが,…被告が,その意思により,ライセンス商品の製造を行わないことを決めた場合以外には,ライセンス契約が終了しても,原告に対して権利を主張することができることまで定めたとは認められない」。

 「そうすると,第2ライセンス契約及び本件合意が締結された後においても,第2ライセンス契約終了後に,被告が,原告からの不正競争防止法に基づく請求に対して,本件商標権を有していることを抗弁として主張することは許されない」。


2.先使用による適用除外について
(1)裁判所は、「被告は,原告及び原告グループを表示するものとして需要者の間で広く認識されていた原告表示と同一又は類似の被告表示(1)ないし(3)を使用しているところ,第2ライセンス契約は既に終了し,その後現在に至るまで原告と被告との間で契約関係は存在しない」。また「被告は,第2ライセンス契約終了後は,ポターが著作したピーターラビットの図柄は使用しておらず,被告表示(1)ないし(3)のみを使用した商品を,他社が原告の許諾を得て製造したポターが著作したピーターラビットの図柄が付された商品とともに展示して,販売していたものと認められるが,このような販売方法は,原告グループの商品と被告の商品との出所が同じであるかのような誤解を消費者に与える」。「これらのことからすると,被告は,被告表示(1)ないし(3)を不正の目的なく使用しているとは認められない」などと判断し、被告の先使用による適用除外の主張は,理由がないとしました。


3.時効取得について
 裁判所は「被告が主張するように本件商標権(1)(2)を時効によって取得したとしても」「被告が本件商標権を有するような外形(商標登録,行使等)が生じたのは,原告とライセンス契約を締結し,その承諾を得ていたからである」ため、「被告が本件商標権(1)(2)を時効によって取得したとしても,ライセンス契約終了後に,原告からの不正競争防止法に基づく請求に対して,本件商標権を有していることを抗弁として主張することは許されない」。


4.小括
 以上により、裁判所は「原告は,被告に対して,不正競争防止法3条1項に基づく差止請求権及び同条2項に基づく廃棄請求権を有すると認められ」、「被告は,不正競争行為について少なくとも過失がある…から…不正競争防止法4条に基づく損害賠償請求権を有する」と判断しました。
 

Ⅲ.被告は原告に対し本件合意に基づいて本件商標権(1)ないし(6)について移転登録義務を負うかどうか
 裁判所は、認定事実から、以下のように判断しました。

(1)「本件合意は,ライセンス契約の更新に当たって本件商標権の取扱いを明確にするために被告の提案によって作成されたもので」、「本件合意中の「In the event that Familiar decides, of it’s own will」の部分について,原告は当初はこの部分を挿入することを拒」むなどし、「原告は,最終的には,契約の更新を優先させて,被告の提案したドラフト案を了承し,合意に至ったこと,以上の事実が認められ,これらの事実に「In the event that Familiar decides, of it’s own will,」という文言を総合すると,本件合意は,被告が,自らの意思に基づいて自発的にライセンス製品の製造を中止した場合には,本件商標権を原告に移転するという意味のものであると解するのが相当である」。
(2)「…事実からすると,被告は,第2ライセンス契約の更新を望んで原告と交渉していたが,交渉が合意に至らず,同契約は期間満了により終了し,その結果,ライセンス製品を製造できなくなったものと認められ」、「被告が,自らの意思に基づいて自発的にライセンス製品の製造を中止した場合に当たるとは認められない」。「…双方の主張が一致しないために交渉が合意に至らなかったに過ぎ」ず、「被告が,自らの意思に基づいて自発的にライセンス製品の製造を中止した場合に当たるとは認められない」。また「…本件合意が原告が主張するような趣旨のものであれば,ライセンス契約の期間満了によって本件商標権を移転する旨の合意をすれば十分であって,上記認定のような経過を経て本件合意のような約定をする必要がなかったことは明らかであるから,原告の主張は採用できない」などにより、「原告の被告に対する本件商標権移転登録手続請求は,理由がない」。
 

Ⅳ.原告が被った損害額(争点4)
(省略)

Ⅴ.乙事件の訴えの適法性と被告による本件衣類の販売等の不正競争行為該当性(争点5)
1.乙事件の訴えの適法性等について

 裁判所は以下のように認定し判断しました。

(1)「乙事件の被告の請求は,本件衣類を販売及び販売のために展示することが不正競争行為に当たらないとして,原告に対して,原告が不正競争防止法に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を有しないことを確認を求める請求である」。

「被告は,本件衣類を製造販売することを具体的に予定しており,試作品も作っていること,原告は,本件衣類を販売及び販売のために展示することは不正競争行為に当たると主張していること」の事実が認められ、また、「本件衣類に付されている「PETER Rabbit」の表記は,字体が被告表示と異なる上,「familiar」の表示が一体として付され」るなどし、「被告表示と同一ではない」。「本件衣類の販売及び販売のための展示について原告が被告に対して不正競争防止法に基づく差止請求権及び損害賠償請求権を有しないことの確認を求める乙事件の訴えは、甲事件とは二重起訴に当たらないのはもとより,原告と被告との紛争を抜本的に解決するために必要なものとして確認の利益を認めることができる」。

(以下省略)
 

2.被告による本件衣類の販売等が,不正競争行為に該当するか
 裁判所は認定事実により、以下のように判断しました。
(1)「原告表示が広く知られていること,本件衣類に付されている表示と原告表示は高い類似性を有すること及び前記2認定のとおり被告は原告からライセンスを受けて営業を行ってきた者であることからすると,被告が本件衣類を販売し販売のために展示する行為は,被告が原告グループの一員として行っているとの誤信を生じさせるおそれがある」。
 「被告は,本件衣類は,我が国において衣類では著名な表示である「familiar」の欧文字が明瞭に表示され」、「著名な被告の店舗でのみ販売される上,「familiar」の欧文字が表示されたハンガーに吊るされ,「familiar」の欧文字が表示された紙袋に入れて販売されるから,具体的取引の実情下において原告の商品と誤認混同されるおそれはないと主張するが…本件衣類に付されている「familiar」の欧文字が著名な表示であり,著名な被告の店舗でのみ上記被告主張のような態様で販売されるとしても,上記誤信を生じることは明らかであって,被告の主張は採用できない」。
(2)「被告が本件商標権(1)の登録商標権者であることは,原告からの不正競争防止法に基づく請求に対して,抗弁として主張することは許されない」。
(3)以上により「被告が本件衣類を販売し販売のために展示する行為は,不正競争防止法2条1項1号に該当するものと認められるから,乙事件の被告の請求は,いずれも理由がない」。


■結論
 以上の次第で,原告の請求は主文掲記の範囲で理由があり,被告の請求はいずれも理由がないから,主文のとおり判決する。

 <主文>

 被告は、別紙被告表示目録記載の表示を付した商品を製造してはならない旨、同表示を付した被告製造に係る商品を譲渡し,譲渡のために展示し,並びにその包装及び広告に上記表示を使用してはならない旨、同表示を付した被告製造に係る商品を廃棄せよとの旨、被告は,原告に対し,金372万9376円及びこれに対する平成12年7月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払えとの旨、原告のその余の請求をいずれも棄却する旨、被告の請求をいずれも棄却する旨…等。

 

■BLM感想等 

 本件において、被告が、我が国において、早い時期から原告とライセンス契約を締結し、我が国において、原告表示を市場に浸透させるべく営業努力をしてきた者であり、原告表示のグループの中核とも言える存在と被告は自負していたのではないかと思います。もっとも、日本で商品化ビジネスを開始した時期は、すでに海外では、原告表示の周知性が認められるほどになっていたこともあり、グループの中核と言えなかった可能性があり、単に使用許諾により原告表示を使用できていたにすぎないとも捉えることができるかもしれません。

 本件の特殊性は、被告が我国商標権を取得していたことです。一般に商標権の権利者は、その商標の所有者とも考えられます。しかし、本ブログで不正競争防止法2条1項1号の事案を見ていくと、商標権者と不正競争防止法2条1項1号の周知表示主体とは一致しないケースも散見され、商標権とはいかなる権利か考えさせられます。

 この点、本件では、「第1ライセンス契約では,原告は,被告に対して,商標登録の出願,商標表示の義務を課していると解され…商標が登録されるかどうかが契約締結の時点では不確定であることからそれがライセンス契約の効力に影響を及ぼさないことを注意的に規定したに過ぎ」ず、「原告が商標権の登録維持に費用を支出していないとしても,被告に対して,商標登録の出願,商標表示の義務を課している以上,原告が…費用を支出しなかったとしても不自然ではない」などとし、「本件商標権(2)ないし(10)は、被告が,原告との間のライセンス契約とは関係なく,独自に取得したものとは認められない」と認定されています。また、被告の出願当時「原告は,日本では原告商品化事業を始めたばかり」だが、「外国においては,すでに多くのライセンシーとの間で契約を締結して,多くの商品について原告商品化事業を行」い、「ピーターラビットそれ自体が絵本によって広く知られていたことと相まって,原告による原告商品化事業は,外国(特に英国)においては,広く知られ」、「この事実に,被告が原告とライセンス契約を締結したライセンシーであったことを考え併せると,被告が,原告の承諾を得ることなく,本件商標権(2)ないし(10)に係る商標登録の出願をした場合には,商標法4条1項7号に該当する可能性が高い」と判断されています。よって「被告が,本件商標権(2)ないし(10)を有しているとしても,それは,原告とライセンス契約を締結し,その承諾を得たことによるもので」、「そうでなければ,これらの商標権を有することができなかった可能性が高い」から、「第1ライセンス契約終了後に,原告からの不正競争防止法に基づく請求に対して,これらの商標権を有していることを抗弁」と認められないとされています。

 一方、裁判所は「原告表示(1)(3)(4)は,原告及び原告表示に係る商品化事業に関してライセンス契約を締結しているライセンシーで構成されるグループ(原告グループ)の商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識された商品表示となっている」と認め、「原告は,多くのライセンシーとライセンス契約を締結し,それらのライセンシーは統一された表示(原告表示(1)(3)(4))を用いている上,商品イメージを統一するための管理等もされているから,原告表示に係る商品化事業に関してライセンス契約を締結しているライセンシーで構成されるグループ(原告グループ)が存する」と認めており、「原告表示が広く知られていること,…被告表示と原告表示は同一又は高い類似性を有すること及び…被告は原告からライセンスを受けて営業を行ってきたことからすると,被告表示(1)ないし(4)の使用は,被告が原告グループの一員であるとの誤信を生じさせるおそれがある」と判断しています。ライセンス契約による商品化事業のグループから離脱した被告は、もはや関係解消し、原告による差止請求が認められる、ということかと思います。

 

By BLM

 

 

 

 

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