不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その77

 本日は、従前に支店であった店舗を閉店した後に、血族関係にある者がその店舗を利用し紛争となった事例を見ていきます。血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例とも言えますが、支店に対する表示の使用許諾の解消事例とも言えるかもしれません。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号28100672)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  東京地判平17・3・23〔五分利屋事件〕平成16(ワ)20488(知財高判平17(ネ)10074〔同・控訴審〕平17・10・13(最一小判平成18(オ)20)(上告不受理)

原告・株式会社五分利屋
被告・A

 

■事案の概要等 

 本件は、原告が、被告に対し,被告が「酒類五分利屋」「酒のデパート五分利屋」「酒五分利屋」「五分利屋団地店」「五分利屋(株)」及び「五分利屋(株)(酒店)」との営業表示を使用する行為につき,不正競争防止法2条1項1号,3条1項に基づいて,上記各表示の使用差止めを求めた事案です。

 本件は、第一審、控訴審、上告審のいずれでも、第一審被告の請求が棄却されているため、第一審を中心に見ていきます。


◆前提事実(当事者間に争いがない事実等)
(1)原告は,昭和26年11月10日,商号を「株式会社五分利屋」(以下「原告商号」という。)とし,和洋酒類調味料の販売等を目的として設立され、肩書住所地に所在する本店のほかに,東京都江東区所在の団地内支店(以下「団地店」という。)を有していたが,平成4年2月に同店を閉店した。ただし,商業登記簿上は,平成16年2月24日,同支店の廃止登記がなされた。
(2)Bは,原告代表者の父であり,昭和26年11月10日から死亡する平成10年6月24日までの間,原告の代表取締役であった。
(3)被告は,Bの妹であり,平茂10年5月ころから,団地店(同支店廃止登記後は同支店所在地)において,自動販売機を設置し,居酒屋を経営することにより酒類を販売しており,その営業につき,「酒類五分利屋」,「酒のデパート五分利屋」,「酒五分利屋」,「五分利屋団地店」,「五分利屋(株)」及び「五分利屋(株)(酒店)」との営業表示(以下,「本件営業表示」)を使用している。(下線筆者)

 

■当裁判所の判断

(下線・太字・着色筆者)

1 周知性について
 裁判所は、証拠及び弁論の全趣旨による事実から「原告商号は,本件営業地域において,周知といえる」と認定しました。

 なお、原告は以下のように主張しています。

「ア 原告商号は,昭和初期,原告代表者の祖父が,原告の本店所在地において,薄利多売の営業方針を意味する「五分利屋」という営業表示を用いて酒類小売業を始めたことに由来する。
イ 原告は,酒類等の店頭小売販売のみならず,各種飲食店及び個人宅への配達業務を行っており,その配達区域は,東京都江東区,墨田区及びこれらの周辺地域である。原告従業員は,配達業務に際し,原告商号を付したシートを掛けたトラックを使用している。
 また,原告は,東京都江東区大島,亀戸及び砂町の各地域において,概ね2週間に1回,原告商号を付した約5万枚のチラシを新聞折り込みにより配布している。
ウ したがって,原告商号は,東京都江東区,墨田区及びこれらの周辺地域(以下「本件営業地域」という。)において,需要者の間に広く認識されている。」


2 類似性及び混同のおそれについて
 裁判所は、下記(2)(3)の事実は,当事者間に争いがなく、「原告商号と被告による本件営業表示とは類似しており,原告と被告とは営業主体が同一と誤認されるおそれが大きい」と判断しています。

 なお、原告は以下のように主張しています。

「(2)類似性
 原告商号のうち「株式会社」は,会社の種類を示すだけであるから,原告商号の要部は「五分利屋」である。他方,被告が使用する本件営業表示のうち「五分利屋」以外の部分は,業種又は支店の名称を示すにすぎず,自他識別力を有しないから,本件営業表示の要部はいずれも「五分利屋」である。したがって,原告商号と本件営業表示とは,要部が同一であり,類似する。
(3)混同のおそれ
 団地店の所在地は,原告の本店所在地から徒歩5分程度の距離にあり,原告の配達区域及びチラシ配布地域に包含される地域である。また、被告は,団地店所在地において居酒屋を営業し,原告と同じ酒類を取り扱っている。したがって,原告と被告とは,営業主体が同一であると誤認されるおそれが大きい。」


3 営業上の利益の侵害について
  裁判所は、証拠及び弁論の全趣旨により、①「平成12年7月ころ,団地店の建物の賃貸人である都市基盤整備公団東京支社から,被告が団地店において本件営業表示を使用して居酒屋を営業していることについて,賃貸借契約上許可されていない業種を営業している上,近隣居住者から多数の苦情が寄せられているとして,原告に対して早急な是正を求める旨の文書が送付されたこと」、

②被告が,タウンページには「五分利屋(株)」,ハローページには「五分利屋(株)(酒店)」との表示を使用して電話番号を掲載している一方,原告も,上記記載に並列して,同様の表示を使用して電話番号を掲載していること」、

③「被告の団地店における税務申告に関して,原告が税務署から指導を受けたり,原告において団地店における酒類販売管理者を選任したことがあったことが認められ,これに被告が本件営業表示の使用を継続していることを併せ考慮すれば,被告が本件営業表示を使用して団地店を経営しているこ」とにより,

「原告の営業上の利益が侵害されている」と判断しました。


4 営業表示の使用権限について
 被告は、「平成10年ころ原告が被告に対して団地店における営業権を譲渡したとして,被告には本件営業表示を使用する権限がある旨を主張する」のに対し、裁判所は、本件確定判決の既判力に基づき「被告が団地店における営業権を有しないことは明らか」とし、「被告が本件営業表示を使用する権限を有するとも認められないから,被告の上記主張は,採用の余地がな」く、また、この点について、被告は,本件確定判決は原告が不当に取得したものであるから,本件訴訟にはその既判力が及ばない旨主張するが、「原告がその成立を争い,本件確定判決において偽造文書であると認定されたことが,真実に反するというものであり,詰まるところ,本件確定判決に対する不服をいうにすぎないから,到底,これを採用することはできない」と判断しました。

 

■BLM感想等 

 本件は、血族関係や親子関係等が絡む関係解消事例とも言えそうですが、判決文を読む限り、被告は、原告の父の妹という血の繋がりがあるに過ぎない場合と考えられます。原告の主張によれば「被告の税務申告に関して,原告が税務署から指導を受けたり,原告の負担において団地店における酒類販売管理者を選任せざるを得な」かったとか、「原告は,平成10年5月ころから,団地店に関して被告が負う賃料,電話料金及び組合費の各債務を立替払いしていた」といった事情があるようなので、身内の者として、見て見ぬふりもできない状況にあり、外部から見れば関係があると捉えられても仕方がない状況であったかもしれません。

 これまで見てきた裁判例では、店舗や什器、備品等が残っている場合は、その外形が維持される可能性があり、特に商標・その他の表示が記載等されている物品は問題が発生する可能性があると考えます。さらに、本件の場合は、平成4年2月に閉店したにも関わらず、商業登記簿上は,平成16年2月24日,同支店の廃止登記がなされたとされているため、約10年ちょっとの間、被告に店舗として使用されてしまうリスクはあったと考えらえます。もっとも、不正競争防止法上は、原告の事業は、被告の事業によって営業上の利益が侵害されるおそれがあるとして、原告の請求が認められました。有形資産と無形資産の管理を併せてしなければいけないと思わせるケースかと思います。

 

By BLM

 

 

 

 

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