不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その76

 本日は、共同経営の合意をした者同士の関係解消事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号25567131)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  京都地判平19・5・25〔龍馬ラーメン店事件〕平18(ワ)2376

原告・株式会社ハウスナー(本訴原告、反訴被告)
被告・〇〇〇〇(本訴被告、反訴原告)

 

■事案の概要等 

 本件本訴は、原告が、被告に対し、①被告が原告に雇用され、原告が賃借する店舗でラーメン店を経営するにあたり、その経営に必要な機材等を搬入していたところ、原告に無断でこの機材等を搬出したため、原告が損害を被ったとして、不法行為に基づく損害金及び遅延損害金の支払を求めるとともに、②上記ラーメン店の経営にあたり原告が負担したリース料相当額及び遅延損害金の支払を求め、

 本件反訴は、被告が、原告に対し、①原告、被告間の利益分配契約を伴うラーメン店の共同経営合意に基づき、報酬合計及び遅延損害金の支払、②原告が、上記ラーメン店の共同経営合意が終了したにもかかわらず、被告が搬入した機材の一部である本件冷蔵庫を返還せず、あるいは、上記機材のリース料を支払わなかったとして、不法行為又は債務不履行に基づき、イ)本件冷蔵庫の引渡し、ロ)損害金及び遅延損害金、ハ)本件冷蔵庫の引渡済みまでのリース料相当額又は遅延損害金の各支払、〔3〕原告が、上記ラーメン店の共同経営合意終了後も、従前被告が使用していた営業表示を使用してラーメン店の営業を継続したとして、不正競争防止法2条1項1号、不法行為又は債務不履行に基づき、損害金の支払をそれぞれ求めた事案す。

 

■当裁判所の判断

(下線・太字・着色筆者)

1 認定事実
 裁判所は、以下のように認定し、判断しました。
(1)「被告は,昭和43年ころから,ラーメン店の経営を」し、「関西地区で「龍馬」「漁師屋」との営業表示を用いてラーメン店を経営していた。…平成14年ころからは,京都市内で,「龍馬」との営業表示を用いてラーメン店を経営している。
(2)「原告ないしその関係者は,平成17年2月ころから,原告が賃借した本件店舗において「とさか屋」との名称で飲食店を経営していたが,被告との間で,本件店舗において「龍馬」との表示を用いてラーメン店を経営することを協議するようになった」。
(3)「原告は,平成17年7月初旬ころ,被告との間で,〔1〕原告が,被告が従前使用していた「龍馬」との名称でラーメン店を経営する,〔2〕被告は本件店舗におけるラーメン店経営に必要な機材類を提供した上で,経営に必要なノウハウを原告に提供する,〔3〕原告は,被告が提供した業務に対する報酬として,被告に対し,月額30万円を支払うとの合意(以下「本件合意」という。)をした。
(4)ア)「被告は,平成17年8月ころから,本件店舗におけるラーメン店の開業準備に従事するようになった」。
イ)「被告は,本件合意に基づき,本件機材〔1〕ないし〔3〕及び本件冷蔵庫を本件店舗に搬入するなどしたところ,本件機材〔1〕ないし〔3〕及び本件冷蔵庫はいずれもリース物件であり,そのリース料は,本件機材〔1〕ないし〔3〕については,合計で月額6万3525円,本件冷蔵庫については月額2万0475円である。そして,原告及び被告は,本件合意の際,上記リース料相当額を原告が負担する旨の合意をした」。
(5)「平成17年9月9日,本件店舗で「龍馬」との表示のラーメン店の営業が開始された」。
(6)「平成17年10月ころから,原告ないし原告代表者と被告との間で,本件店舗でのラーメン店の経営方法等について意見の対立が表面化し,そのため,同月ころ,原告及び被告は,平成17年11月末付けで被告が本件店舗でのラーメン店の営業から撤退する旨の合意をした」。
(7)ア)「被告は,平成17年12月26日,原告代表者の親族が代表者である会社が所有するマンションに保管されていた本件機材〔1〕を搬出した。そして,被告は,翌27日,本件機材〔2〕及び〔3〕並びに被告が本件店舗内に搬入したその他の備品等を搬出した。
 イ)原告は,現在に至るまで,被告に対し,本件冷蔵庫を返還していない。
 ウ)原告は,平成17年11月23日以降の本件機材〔1〕ないし〔3〕及び本件冷蔵庫のリース料相当額を被告に支払っていない。
(8)「原告は,被告が本件店舗でのラーメン店の経営から撤退した後も,本件店舗においてラーメン店の営業を継続しており,少なくとも平成18年12月1日までは「龍馬」との表示を上記ラーメン店の営業に使用していた」。
 

2.本訴請求に対する判断
(1)不法行為について
 裁判所は、ア)「原告は,被告が本件店舗に搬入したリース物件等の機材について平成18年1月10日までは原告が使用を継続する旨の合意を原告,被告間でしていたにもかかわらず,被告がこの合意に反し,平成17年12月27日に原告に無断で本件店舗から上記機材等を搬出した旨主張」するが、客観的な証拠はないとし、「被告が,原告との間でいったん平成18年1月10日までは上記機材等の使用継続を認める旨の合意をしておいて,その後,あえて上記合意を破棄して,原告に無断で上記機材等を搬出しなければならない動機も窺えないことなどからすれば,原告,被告間の合意に基づいて本件店舗から機材を搬出したとする被告の供述…ないし陳述…を排斥」できないと判断しました。

 その他種々主張しているが認められず、裁判所は、「不法行為に関する原告の主張は理由がない」と判断しました。


(2)リース料相当額の支払請求について
 裁判所は「原告は,被告が本件店舗に搬入したリース物件のリース料相当額…を支払ったところ,被告が原告とのラーメン店経営に関する合意を一方的に終了させたとして,被告に上記リース料相当額の支払を請求する」が、「上記リース料相当額は本件店舗におけるラーメン店の経営に必要な経費として原告がその負担を了承した上で支払ったもので」、「原告は,本件店舗におけるラーメン店の経営により一定の収益を上げており,その収益を上げるには当然経費の支出が必要になる」から、「上記経費をもって,原告が主張する債務不履行と相当因果関係にある損害とい」えないと判断しました。

3.反訴請求に対する判断
 裁判所は、以下のように認定し、判断しました。

 

(1)利益分配契約に基づく金員支払請求について
(ア)「被告は,本件合意に基づき,平成17年8月に,本件店舗におけるラーメン店の開業準備に従事していた」から、「本件合意に基づく平成17年8月分の報酬…請求することができ、イ)「他方,原告は,平成17年8月には本件店舗におけるラーメン店の営業を開始していなかったから,被告への報酬の支払義務を負わない旨主張する」が、「被告は,本件合意に基づいて,平成17年8月に,本件店舗におけるラーメン店の開業準備に従事していた」から、「その対価として報酬を請求…できると解される」。その他、平成17年9月分についても、被告は、同旨により報酬請求が認められました。
(イ)原告は「被告の賃金台帳」に、「被告の領収者印や署名等がなく,また,平成17年9月30日付けの原告名義の口座からの60万円の出金…が被告への報酬支払に充てられたと認めるに足りる客観的証拠などもないとして認めませんでした。

(2)機材のリース料ないしリース料相当損害金の支払請求について
(ア)「平成17年11月末日付けで,被告が本件店舗におけるラーメン店の経営から撤退する旨の合意がされたところ,当該合意の合理的意思解釈として,原告が,平成17年11月末日の経過後遅滞なく,本件機材〔1〕ないし〔3〕及び本件冷蔵庫を含む被告が本件店舗に搬入した機材等を被告に返還する債務を負うとの合意があったと解すべき」と判断しました。
(イ)①「原告が,平成17年11月23日から同年12月22日までの間,本件機材〔1〕ないし〔3〕を被告に返還していないこと及び上記期間の本件機材〔1〕ないし〔3〕のリース料相当額を被告に支払って」おらず、「原告は,被告に対し,本件合意に基づくリース料相当額,あるいはアに判示した合意の履行遅滞に基づく損害金として合計6万3525円の支払債務を負う」と判断しました。
②「原告が,平成17年11月23日から現在に至るまで本件冷蔵庫を被告に返還していないこと及び上記期間の本件冷蔵庫のリース料相当額を被告に支払っていない」ため、「原告は,被告に対し,本件合意に基づくリース料相当額,あるいはアに判示した合意の履行遅滞に基づく損害金として,平成17年11月23日から本件冷蔵庫の引渡済みまで1か月2万0475円の支払債務を負う」と判断しました。

(3)名称の不正使用について
(ア)裁判所は以下のように認定し、判断しました。

 「被告は,本件表示が,平成14年ころ,京都市下のラーメン愛好家の間で周知となったとして,これを前提に,被告が本件店舗におけるラーメン店の経営から撤退して以降,原告が本件表示を使用し続けたことが,不正競争防止法2条1項1号に定められた不正競争行為に該当すると主張する」が、「本件で問題とされるラーメン店については,その性格上,需要者として一般消費者を想定すべきであるところ」、「被告が経営する「龍馬」との名称のラーメン店が雑誌やインターネット上の掲示板等で紹介されるなどしている事実は認められるが」、「「龍馬」との表示は,被告本人も供述するとおり,我が国の歴史上著名な人物である坂本龍馬を一般に想起させ」,「普通名称に近い性格を有し」、また「自他識別力が高い特徴的な表示とも認め難いことなどに照らせば,上記の事実のみをもって,本件表示ないし「龍馬」との営業表示が,特定人のラーメン店の営業を示すものとして,京都市内の一般消費者に広く知れ渡っているとまで認めることは困難である」。

 「よって,原告が本件表示ないし「龍馬」との表示を使用することが不正競争防止法2条1項1号の…不正競争行為であるということはできない」。


(イ)「被告は,本件合意終了後も原告が本件表示,あるいは「龍馬」との表示を使用し続けたことが被告に対する債務不履行ないし不法行為に該当すると主張する」が、「原告が上記使用を継続したことが,被告に対する債務不履行ないし不法行為になり得るとしても…「龍馬」との表示が普通名称に近い性格を有していることや,自他識別力が高い特徴的な表示とは認め難いことなどからすれば,商道徳上,原告による上記表示の使用継続が適当であるか否かは別論として,これにより,被告に法的保護の対象となるような損害が発生したとは認め難い」。


(ウ)「以上のとおりであるから,名称の不正使用に関する被告の主張は,その余の点を判断するまでもなく理由がない」。

■結論

 以上により、「原告の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却し,被告の反訴請求は,主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないからこれを棄却する」などとして、以下の主文のとおり判決しました。

1.原告の本訴請求をいずれも棄却する。
2.原告は,被告に対し,60万円及びうち30万円に対する平成17年9月1日から,うち30万円に対する平成17年10月1日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3.原告は,被告に対し,別紙物件目録記載の冷凍冷蔵庫(以下「本件冷蔵庫」という。)を引き渡せ。
4.原告は,被告に対し,6万3525円及びこれに対する平成18年9月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5.原告は,被告に対し,平成17年11月23日から本件冷蔵庫の引渡済みまで1か月2万0475円の割合による金員を支払え。
6.被告のその余の反訴請求をいずれも棄却する。

(以下省略)

 

■BLM感想等 

 本件において、「原告は,平成17年7月初旬ころ,被告との間で,〔1〕原告が,被告が従前使用していた「龍馬」との名称でラーメン店を経営する,〔2〕被告は本件店舗におけるラーメン店経営に必要な機材類を提供した上で,経営に必要なノウハウを原告に提供する,〔3〕原告は,被告が提供した業務に対する報酬として,被告に対し,月額30万円を支払うとの合意(以下「本件合意」という。)をしていますが、本件合意が終了し、関係解消時には、原状回復が必要な場合は回復し、返すものは返し、支払うものは支払うべきという、いわば当然のことを判断したように思います。

 但し、無形資産においては、なにをもって当然というかは難しいところなのかと思います。すなわち「被告は,本件表示が,平成14年ころ,京都市下のラーメン愛好家の間で周知となったとして,これを前提に,被告が本件店舗におけるラーメン店の経営から撤退して以降,原告が本件表示を使用し続けたことが,不正競争防止法2条1項1号に定められた不正競争行為に該当する」と主張しています。かかる場合に返すべきものは返すと言えるのか問題となります。

 この点、裁判所は、「本件で問題とされるラーメン店については,その性格上,需要者として一般消費者を想定すべきであるところ」、「被告が経営する「龍馬」との名称のラーメン店が雑誌やインターネット上の掲示板等で紹介されるなどしている事実は認められるが」、「「龍馬」との表示は,被告本人も供述するとおり,我が国の歴史上著名な人物である坂本龍馬を一般に想起させ」,「普通名称に近い性格を有し」、また「自他識別力が高い特徴的な表示とも認め難いことなどに照らせば,上記の事実のみをもって,本件表示ないし「龍馬」との営業表示が,特定人のラーメン店の営業を示すものとして,京都市内の一般消費者に広く知れ渡っているとまで認めることは困難である」とし、「原告が本件表示ないし「龍馬」との表示を使用することが不正競争防止法2条1項1号の…不正競争行為であるということはできない」と判断しています。すなわち、返さなくてよい、というか、そもそも被告を表示主体とする表示ではなく、原告も使用を継続できる表示であると言えます。「龍馬」の下で、周知表示の主体を形成していれば、もっと違う判断になっていたとも考えられます。

 

By BLM

 

 

 

 

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