不正競争防止法2条1項1号の裁判例をよむ

個人的興味からのランダムピックアップ裁判例 その75

 本日は、長らく使用許諾関係にあった当事者の紛争事例を見ていきます。

 本裁判例は、LEX/DB(文献番号25445861)より引用。形式的な修正追加あり(「」等で明示ない箇所もあります)。

 

  知財高判平25・9・5〔商品(田崎真珠)販売差止請求権不存在確認請求・控訴審〕平25(ネ)10021

控訴人・株式会社高木(原告)
被控訴人・株式会社TASAKI(被告)

 

■事案の概要等 

 本件は、控訴人(原告)が、指定商品に控訴人商品を含む商標権を有する被控訴人(被告)との間で被控訴人商品の売買取引をしていたが被控訴人が控訴人店舗壁面等に掲示されていた標章の掲示の中止を要求するとともに被控訴人商品付属品の供給を中止したことから、商標権又は不正競争防止法のいずれに基づいても被控訴人が控訴人に対して差止請求権を有しないことの確認を求めるとともに、債務不履行に基づく損害賠償を求めた事案です。原審は,①被控訴人は控訴人に対して上記控訴の趣旨第2項及び第3項に係るものと同旨の差止請求権をいずれも有する,②被控訴人に上記基本契約の債務不履行はないとしたため控訴したのが本件です。

 

◆前提となる事実

(1)当事者

・控訴人(昭和51年10月設立。資本金1000万円。)は、各種アクセサリー製造及び販売並びに貴金属の加工及び販売等を目的とする。

・被控訴人(昭和34年12月設立。資本金1億円。(平成22年2月26日201憶6494万8855円から75億円に減資し、さらに平静24年3月1日減資。)平成24年2月1日「田崎真珠株式会社」から商号変更。)は、宝石及び貴金属の輸入,加工,販売に関する業務等を目的とする。

(2)被控訴人を商標権者とする商標権

登録第3055972号「図形」(第14類 貴金属,貴金属製食器類,…身飾品(「カフスボタン」を除く。),カフスボタン,宝玉及びその模造品,宝石の原石,時計…等)、登録第3307639号「田崎真珠」(第14類)、登録第3335194号「図形」(第14類)、登録第3344966号「TASAKI SHINJU」(第14類)…等

(3)控訴人の標章の使用

 「控訴人は、遅くとも平成8年11月1日以降、被控訴人から宝飾品を仕入れ,別紙店舗一覧表記載の控訴人店舗及び高島屋立川店内に存する控訴人立川店でこれを販売していた」。控訴人は、①「遅くとも平成11年ころから平成23年12月までの間,別紙店舗一覧表記載1〔1〕の店舗(大宮店)の店舗内壁面に図形標章1及び文字標章2を掲示し」、②「遅くとも平成17年ころから平成23年12月までの間,別紙店舗一覧表記載1〔3〕の店舗(横浜店)の店舗内壁面に図形標章1及び文字標章2を掲示し」、③「平成18年9月から平成23年12月までの間,別紙店舗一覧表記載1〔4〕の店舗(泉北店)の店舗内壁面に図形標章1及び文字標章2を掲示し」、④「遅くとも平成11年ころから平成23年12月までの間,別紙店舗一覧表記載1〔2〕の店舗(柏店)の店舗内のディスプレイに図形標章2及び文字標章1を掲示し」、⑤「遅くとも平成11年ころから平成23年12月までの間,立川店(高島屋立川店内)の店舗内のディスプレイに図形標章1及び文字標章2並びに図形標章2及び文字標章1を掲示」し、もって「商品に関する広告にこれら標章を付して展示していた」。 

 

■当裁判所の判断

(下線・太字・着色筆者)

Ⅰ.不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為の成否について
1.争点1(本件商標等の使用許諾の有無)について
(1)契約による使用許諾につき
ア)契約の成立の有無
 裁判所は「控訴人は,平成3年に締結したとする控訴人主張の基本契約には本件商標等の使用許諾が明示又は黙示に含まれていた旨を主張」などするが、「控訴人の主張は,本件基本契約に本件商標等の使用許諾が明示又は黙示に含まれていた旨の主張を含むものと解されるが,本件基本契約の記載内容は…控訴人と被控訴人との間で被控訴人商品を買受ける際の両者間の売買取引条件の基本的・共通事項に関する条項にとどま」り、「明示的にはいうに及ばず,黙示的にも本件商標等の使用許諾を含むものとは解され」ないと判断しました。そして「控訴人が主張するところの使用許諾は…使用範囲も使用条件も使用期限も無限定に等し」く、「かような商標権者そのものが有する権利に匹敵するような強固な権利の設定が,契約書に明記もされずに口頭で一取引業者にすぎない控訴人に付与されたとするのは,特段の事情が存しなければ是認」できず、「特段の事情」は認められず、「被控訴人が控訴人に対して本件商標等の使用許諾をしたものとは認め難い」と判断しました。


イ その他控訴人の主張に対して
 裁判所は「控訴人店舗内で本件商標等を付した商品を販売する」ことは、「商標権者等である被控訴人によって当然に許諾されていると解されるか若しくはその許諾が強く推定されるのに対し(控訴人の商品販売態様によっては商標権が消尽していることも考えられる。)」、「本件商標等を控訴人店舗内に掲示することの許諾の有無についてはこれとは別途の考察が必要である」とし、「このことは,本件商標等が付された商品を譲渡等することの許諾がなければ(あるいは商標権が消尽していなければ)被控訴人商品は被控訴人商品として販売できず、また,被控訴人商品を被控訴人商品として売買しても被控訴人商品の出所識別が誤認されることはないが、本件商標等を控訴人店舗内に掲示すれば,あたかも控訴人が被控訴人商品の出所であるかのように誤認され,かつ,控訴人と被控訴人とが営業主体として誤認混同されるおそれを生じることから明らかである」とし、「本件商標等を店舗内に掲示することができないことと,本件商標等が付された被控訴人商品の販売ができることとは矛盾するものではなく,両者は個別に論じられるべき」で、「被控訴人商品の売買契約に,本件商標等を控訴人店舗内で掲示することの許諾が当然に付随するものではない」と判断しました。
 なお、裁判所は「控訴人は、被控訴人から本件標章の清刷りの交付を受けたことを根拠に本件商標等の店舗内への掲示について使用許諾があった旨を主張するが、この清刷りについては,控訴人において被控訴人商品に本件商標のタグや値札を付する必要のために交付されたものと認められる」とし、「本件商標等を店舗内に掲示するために交付された」とは認めませんでしました。
 また、裁判所は、「控訴人は…平成3年10月撮影とするショーケース内の本件商標等に係るディスプレイの写真…及び電飾看板の写真…を提出するが…撮影時期に撮影されたことを認め」られず、また「上記ディスプレイや電飾看板を設置することを被控訴人が許諾したこと又は被控訴人が作製したことを認めるに足りる証拠もない」としました。
 裁判所は、「以上のほか控訴人が主張立証する点を考慮しても、控訴人の上記主張はいずれも理由がない」としました。


(2)黙示の許諾につき
 裁判所は、「平成3年以降控訴人は本件商標等の使用を継続してきたにもかかわらず被控訴人から異議を述べられたことはなかったから,被控訴人より本件商標等の店舗内の掲示等について黙示の許諾があった旨を主張する」が、「控訴人と被控訴人との間の取引が継続している間に被控訴人が控訴人による本件商標等の店舗内への掲示に特段の異議を述べなかったとしても,それがその間に関する限り本件商標等の使用に係る責任を免責する効果を生ずるとしても被控訴人から後日その事実状態の解消を求められたにもかかわらず…その状態を継続することが正当化され」ず、控訴人の「主張は理由がない」と判断しました。。
 

(3)小括
 裁判所は、以上により「本件商標等を控訴人店舗内に掲示することについて許諾があった」と認められないと判断しました。


2.争点4(債務不履行責任の有無)について
 裁判所は、「平成3年に締結したとする控訴人主張の基本契約には,被控訴人の控訴人に対する継続的商品等供給義務が約定されたことを前提とする趣旨の主張をしている」が、認めず、また「本件基本契約に被控訴人の控訴人に対する継続的商品等供給義務があることを前提とする趣旨の主張を含むものと解されるが,本件基本契約書の記載内容は…控訴人と被控訴人との間で被控訴人商品を買い受ける際の売買取引条件の基本的・共通事項に関する条項であり,これらは個別の具体的売買契約が成立する際の約定が中心である」とし、「控訴人が債務不履行として主張するのは,販売ツールの提供義務も本件基本契約の約定に含まれていたことを根拠にするものであるが,販売ツールの提供に関する約定は本件基本契約書に記載はな」く、「交渉が続けられていた特約店契約では販売ツールの提供の約定が盛り込まれることは想定されるものの,この契約締結には至らなかった以上,そのような約定がされたことを認めるべき根拠はない」と判断しました。よって、「被控訴人に本件基本契約を含む基本契約の債務不履行は認め」ませんでした。


3.争点(4)(権利濫用の有無)について
 裁判所は「控訴人は本件商標等を控訴人店舗に掲示する許諾を得ておらず」、「被控訴人に契約違反も認められない」から、「被控訴人の差止請求が権利濫用となる余地はない」と判断しました。
4.まとめ
 以上により、裁判所は、「控訴人が本件商標等を控訴人店舗の壁面に掲示して使用することは,本件商標等に係る被控訴人商標権の侵害であり」,かつ,「不正競争防止法2条1項1号の不正競争」であると判断しました。

 そして、「控訴人が平成23年12月から平成24年1月までの間に本件商標等の使用を止めているとしても」、「控訴人自身が本件標章を控訴人店舗に掲示することについて被控訴人に差止請求権がないことの確認を求める本件訴訟を維持していること自体から,控訴人は被控訴人の商標権を侵害するおそれがあり」,かつ,「被控訴人の営業上の利益を侵害するおそれがある」ため、「被控訴人は,控訴人に対し,本件商標等に係る商標権に基づいて控訴人が本件標章を控訴人店舗に掲示すること差し止める権利があり,かつ,本件商標等に係る商品等表示に基づいて控訴人が本件標章を控訴人店舗に掲示すること差し止める権利を有し,これら各差止請求権がないことの確認を求める控訴人の債務不存在確認請求は理由がない」などと判断しました。

■結論
 裁判所は「本件請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却する」と判断しました。

 

■BLM感想等 

 本件のように、製造販売業者にとって、販売業者さん、卸売業者・小売業さんらは、自社商品を広く販売してくれるお取引先として大事にしたいところかと思います。しかし、一方で、統一的な商標・その他の表示の使用を管理しなければ、その出所識別機能、品質保証機能等が発揮されず、信用も蓄積されないというジレンマがあるのではないでしょうか。小売業さんなどにしてみれば、自社があたかも、本件であれば、被控訴人・株式会社TASAKI(被告)と関係が深い旨訴求できれば、お客さんは安心して購入してくれるでしょう。店舗に「田崎真珠」等の看板を掲げたいところですが、商品の値札や包装容器等に「田崎真珠」等の表示がされているのとでは、意味合いが異なります。この点、裁判所も「控訴人店舗内で本件商標等を付した商品を販売する」ことは、「商標権者等である被控訴人によって当然に許諾されていると解されるか若しくはその許諾が強く推定されるのに対し」とし、また「(控訴人の商品販売態様によっては商標権が消尽していることも考えられる。)」とも述べているところです。

 一方で「本件商標等を控訴人店舗内に掲示することの許諾の有無についてはこれとは別途の考察が必要である」とし、「このことは,本件商標等が付された商品を譲渡等することの許諾がなければ(あるいは商標権が消尽していなければ)被控訴人商品は被控訴人商品として販売できず、また,被控訴人商品を被控訴人商品として売買しても被控訴人商品の出所識別が誤認されることはないが、本件商標等を控訴人店舗内に掲示すれば,あたかも控訴人が被控訴人商品の出所であるかのように誤認され,かつ,控訴人と被控訴人とが営業主体として誤認混同されるおそれを生じる…」とし、また「被控訴人商品の売買契約に,本件商標等を控訴人店舗内で掲示することの許諾が当然に付随するものではない」と判断しました。

 本ブログでは最近はもっぱら、関係解消事例を見ていますが、控訴人・株式会社高木(原告)のような小売業者・販売店は、商標・その他の表示主体とはいえず、関係があるとは言えないのかもしれませんが、大きく捉えると関係があると言え、表示主体に含まれる者の外に位置する関係者と言えるのかもしれません。

 

By BLM

 

 

 

 

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